等式の世界は面白いが,不等式の世界だって奥深いものがある.
[1]コーシー・シュワルツの不等式(u・v≦|u||v|)を適用すれば,長さの総和の2乗と長さの2乗の総和の間に
(Σd)^2≦NΣd^2
が成り立つ.ひとつの頂点から他のn−1個の頂点までの距離を考える場合はN=n−1,すべての2頂点間の距離を考える場合はN=n(n−1)/2となるので,それぞれ
(Σd)^2≦NΣd^2=2n(n−1)
(Σd)^2≦NΣd^2=n^3(n−1)/2
[2]チェビシェフの不等式においてb=1/aとおくと
(Σa)・(Σ1/a)≧n^2
となるから,
(Σd)^2・(Σ1/d)^2≧N^4
したがって,それぞれ
(Σ1/d)^2≧(n−1)^3/2n
(Σ1/d)^2≧n(n−1)^3/8
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まとめると
ひとつの頂点から すべての2頂点間
Σd^2 ≦2n ≦n^2
Πd ≧n ≧n^n/2
Σ1/d^2 ≦(n^2−1)/12 ≦n(n^2−1)/24
(Σd)^2 ≦2n(n−1) ≦n^3(n−1)/2
(Σ1/d)^2 ≧(n−1)^3/2n ≧n(n−1)^3/8
となるが,等号が成り立つのはどんなときなのだろうか?
コーシー・シュワルツの不等式,チェビシェフの不等式を適用して得られた(Σd)^2,(Σ1/d)^2は任意の次元の正単体のとき等号成立.Σd^2は任意の次元のセントロイドと外接球の中心が一致する多面体のとき等号成立,Πd,Σ1/d^2は正多角形(n次元正多面体が2次元平面に退化したもの)のとき等号成立.
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【雑感】
この問題は等周問題と類似の様相を呈してきました.たとえば,多角形の等周問題とは
[1]どのような多角形でも辺の長さを変えずに,内角を変えて円に内接させることができます.また,どのような多角形でも辺の長さを変えずに,内角を変えて囲む面積を最大にすることができます.
[2]n≧4のとき,各辺の長さが指定されたn角形の中で,面積が最大のものは円に内接します.さらに周の長さが指定されたn角形の中で,面積が最大のものは正n角形です(円を球帽に変えれば球面n角形に対しても成り立つ).
多面体の等周問題には未解決の問題がまだまだ残されています.ここに掲げた等式・不等式を使ってアプローチすることはできないものでしょうか?
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