今朝,中川宏さんから「この心はなんと呼ばれていますか?」というメールがあった.各辺に正三角形たてて,その頂点と対角を結ぶ直線の交点である.
以下,S(佐藤)とN(中川)のやりとり.
S:フェルマー点.120°で交わります.一松信先生のお話では三角形の心は100ほどあるそうです.詳しい本としては
一松信「初等幾何入門」岩波書店
イボンヌ&ルネ・ソルテ「なぜ初等幾何は美しいか」東京出版
N:ウェルズ「不思議おもしろ幾何学事典」朝倉書店にもありました.[1]120°,[2]同長,[3]最短距離.美しいですね.どうして学校では教えないのでしょう.
N:ところで,フェルマー点という名からすると17世紀に発見されたようですが,あまりのも素朴な作図なので,このように1点に集まる心が存在することは昔から知られていたのではないでしょうか?
S:三角形の5心とは内心,傍心,重心,外心,垂心を指しますが,古代ギリシャ人は5心について知っていました.その1500年後,フェルマー点が発見され,さらに1〜2世紀後に9点円の中心,その次がジェルゴンヌ点,19世紀にはいるとナーゲル点やブロカール点などが発見されました.
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【1】三角形の5心(はじめに三角形ありき)
三角形の5心とは内心,傍心,重心,外心,垂心を指しますが,内心は内角の2等分線,傍心は1内角と2外角の2等分線,重心は中線,外心は辺の垂直2等分線,垂心は頂点から対辺への垂線が1点に会した共点です.
このうち,三角形の内心は3辺への距離のうちで一番小さいものが最大となる点(マックスミニ点),外心は3頂点に至る最大距離が最小となる点(ミニマックス点)です.同様に,垂心は三角形に内接する三角形の周長が最小になる点,重心は3頂点に至る距離の2乗の和が最小となる点です.
幾何学の基本形である三角形の性質について,もう一度見直してみることにしましょう.
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【2】フェルマー点
微分積分の入門書に「平面上に3つの定点A,B,Cがある.この平面上に点Pをとって,AP^2+BP^2+CP^2が最小になるようにせよ」という問題が偏導関数の応用例として載せられています.その点Pは重心です.3定点が4定点であっても,同じ議論になるのですが,距離の2乗の和に特に具体的な意味があるようには思えません.むしろ,2乗を取り去ったほうが問題としては自然です.
そこで,「A,B,C3軒の家に電線をひきたい.電線の長さを最小にするにはどこの柱を立てればよいか」ではAP+BP+CPを最小にする実用価値のある問題になります.
この問題は17世紀のフランスの数学者フェルマーがイタリアの物理学者トリチェリ,数学者カヴァリエリに出題したものとして有名な問題で,求める点Pをフェルマー点といいます.点Pは三角形ABCの内部にありますが,∠A,∠B,∠C<120°のときには,3頂点に至る距離の和が最小となる点は3辺を等角120°に見込む点です.∠A,∠B,∠Cのいずれかが≧120°のときには,それぞれ頂点A,頂点B,頂点Cになります.
このフェルマー点は頂点と外正三角形の頂点を結ぶ直線の共点として得られます.すなわち,フェルマー点を見つけるには与えられた三角形の各辺の上に正三角形を立てて各頂点と結ぶと,これら3本の線は1点Fで交わり∠AFB=∠BFC=∠CFAが成り立ちます.また,フェルマー点は3つの正三角形の外接円の交点でもあります.
このような最短配線問題は最小木問題(問題の発案者シュタイナーに因んで最小シュタイナー木問題)と呼ばれていますが,VLSI回路を設計するときの最も基本的な技術となっています.
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【3】9点円の中心
外心と重心の中点はフォイエルバッハの9点円の中心であり,フォイエルバッハの9点円は各辺の中点,各頂点から対辺へ下ろした垂線の足,頂点と垂心の中点の9個の点を通る円となっています(1821年:ポンスレとブリアンション).
このことから,オイラー線(1767年)は外心・重心・垂心・フォイエルバッハの9点円の中心を相互に結ぶ直線ということになりますし,フォイエルバッハの9点円の中心はオイラー線の中点で,その半径は外接円の半径の半分となります.
さらに,フォイエルバッハの9点円が三角形の内接円と傍接円の各々に接する,9点円には他にも多くの特別な点が含まれているなど,三角形のような簡単な図形が無数に未知の性質を有することはまことに不思議なことです.
[参]前原濶,桑田孝泰「知っておきたい幾何の定理」共立出版
に9点が同一円周上の存在することのエレガントな証明が掲げられています.
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