■θ/πは無理数である(その1)

 正多面体の二面角をδとする.

  正四面体 → cosδ4=1/3,sinδ4=√8/3

  立方体 → cosδ6=0,sinδ6=1

  正八面体 → cosδ8=−1/3,sinδ8=√8/3

  正十二面体 → cosδ12=−√5/5,sinδ12=√20/5

  正二十面体 → cosδ20=−√5/3,sinδ20=2/3

 今回のコラムではθを正多面体の二面角をして,θ/πは無理数であることを示す.

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【1】正四面体の場合

[Q]角δがtanδ=2√2を満たすならば,δはπの有理数倍ではない.

[A]もしδがπの有理数倍ならば,あるnに対しnδがπの整数倍となって,tannδ=0または∞となる.そこで,すべての整数nに対し,tannδ≠0,∞であることを示す.

 加法公式

  tan(n+1)δ=(tanδ+tannδ)/(1−tanδtannδ)

より,

  tanδ=2√2

  tan2δ=−4√2/7

  tan3δ=10√2/23

  tan4δ=−56√2/17

  tannδ=a√2/b

ならば

  tan(n+1)δ=(a+2b)√2/(b−4a)

帰納的にtannδはすべてのnに対して√2の有理数倍(=a√2/b)であることがわかる.

 この分数の(a,b)=(2,1)から出発して,(分子,分母)=(a+2b,b−4a)を(mod 3)でみると

  (2,1)

  (4,−7)=(1,2)

  (−10,−23)=(2,1)

  (−56,17)=(1,2)

の2ステップの繰り返しになることがわかる.したがって,a,bのどちらも0にはなり得ず,tannδ≠0,∞となる.

 ところで,この証明には(mod 3)が現れた.あまりにも唐突すぎて,この意味をわかるひとはたとえいたとしても少ないと思われる.

  Z4=cosδ+isinδ=1/3+i√8/3

  z−1/3=i√8/3

より,Z4は2次方程式3z^2−2z+3=0の解であるからというのがその理由である.

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【2】正八面体の場合

[Q]角δがtanδ=−2√2を満たすならば,δはπの有理数倍ではない.

[A]

  tanδ=−2√2

  tan2δ=4√2/7

  tan3δ=−10√2/23

  tan4δ=56√2/17

  tannδ=a√2/b

ならば

  tan(n+1)δ=(a−2b)√2/(b+4a)

  Z8=cosδ+isinδ=−1/3+i√8/3

  z+1/3=i√8/3

より,Z8は2次方程式3z^2+2z+3=0の解である.

 そこで,この分数の(a,b)=(−2,1)から出発して,(分子,分母)=(a−2b,b+4a)を(mod 3)でみると

  (−2,1)=(1,1)

  (−4,−7)=(2,2)

  (10,−23)=(1,1)

  (56,17)=(2,2)

の2ステップの繰り返しになることがわかる.したがって,a,bのどちらも0にはなり得ず,tannδ≠0,∞となる.

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【3】正十二面体の場合

[Q]角δがtanδ=−2を満たすならば,δはπの有理数倍ではない.

[A]

  tanδ=−2

  tan2δ=4/3

  tan3δ=−2/11

  tan4δ=−24/7

  tan5δ=−38/41

  tannδ=a/b

ならば

  tan(n+1)δ=(a−2b)/(2a+2b)

  Z12=−√5/5+√20/5i

  z+√5/5=−i√20/5

より,Z12は2次方程式5z^2+2√5z+5=0の解である.

 そこで,この分数の(a,b)=(−2,1)から出発して,(分子,分母)=(a−2b,2a+b)を(mod 5)でみると

  (−2,1)=(3,1)

  (−4,−3)=(1,2)

  (2,−11)=(2,4)

  (24,−7)=(1,3)

  (38,−41)=(3,1)

の4ステップの繰り返しになることがわかる.したがって,a,bのどちらも0にはなり得ず,tannδ≠0,∞となる.

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【4】正二十面体の場合

[Q]角δがtanδ=−2√5/5を満たすならば,δはπの有理数倍ではない.

[A]

  tanδ=−2√5/5

  tan2δ=−4√5

  tan3δ=22√5/35

  tan4δ=8√5/79

  tannδ=a√5/b

ならば

  tan(n+1)δ=(5a−2b)√5/(10a+5b)

  Z20=−√5/3+2/3i

  z+√5/3=−i2/3

より,Z20は2次方程式3z^2+2√5z+3=0の解である.

 そこで,この分数の(a,b)=(−2,5)から出発して,(分子,分母)=(5a−2b,10a+5b)を(mod 3)でみると

  (−2,5)=(1,2)

  (−20,5)=(1,2)

  (−110,−175)=(1,2)

  (−200,−1975)=(1,2)

の繰り返しになることがわかる.したがって,a,bのどちらも0にはなり得ず,tannδ≠0,∞となる.

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【5】円分拡大のガロア理論

[1]円分体

 円周のn分の1の角をα=2π/nとするとき,

  ζ=exp(αi)=cosα+isinα

は1のn乗根である.1,ζ,ζ^2,・・・,ζ^(n-1)のなかで,(d,n)=1となるζ^dを1の原始n乗根とよぶ.

 また,

  Φn(x)=Π(x−ζ^d)=(x^n−1)/ΠΦd(x)

はn次の円分多項式とよばれる.その次数はオイラーのφ関数

  φ(n)=#{1≦d<n,(d,n)≠1}

で与えられる.

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[2]円分拡大のガロア理論

 体Q(ζ)はQ上n次の円分拡大と呼ばれ,

  ζ=exp(αi)=cosα+isinα

で生成される.それはQ上,次数φ(n)をもち,そのガロア群はZnと同型である.とくにnが素数pのとき,次数p−1をもち,そのガロア群はZpと同型の位数p−1の巡回群である.

る.

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[3]正四面体の場合

 円分拡大のガロア理論を用いて,

[Q]角δがcosδ=1/3を満たすならば,δはπの有理数倍ではない

ことを証明する.

  cosδ=1/3,sinδ=√8/3

であるから

  z=cosδ+isinδ=1/3+i√8/3

を考える.

  z−1/3=i√8/3

より,zは2次方程式3z^2−2z+3=0の解である.それゆえ,zはQ上の2次拡大体Q(z)=Q(−√2)を生成する.

 δがπの有理数倍ならは,

  δ=p/q・2π   (p,q)=1

と書ける.zは1のq乗根となるから,円分多項式Φq(z)の次数はφ(q)=2となる.

 もし,q=p1^e1p2^e2・・・pd^edと素因数分解されるならば

  φ(q)=Πpi^ei-1(pi−1)

であるから,φ(q)=2を与えるqはq=3,4,6のみで,これらに対応する拡大体はQ(√−3)とQ(i)である.

 どちらもQ(√−2)と異なるので矛盾,したがって,δはπの有理数倍ではない.

 正八面体→Q(√−2)

 正十二面体→Q(√−5)

 正二十面体→Q(√−5)

の場合も同様に,δはπの有理数倍ではない.

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