n!については粗い不等式
2^n-1≦n!≦n^n-1
が成り立つから,
n≦n^n/n!≦2(n/2)^n
一方,
n!^2=(1・2・・・n)(n・・・2・1)=Πk(n+1−k)
Πn≦n!^2≦Π(n+1)^2/4
より
n^n/2≦n!≦(n+1)^n/2^n
2^n(1+1/n)^-n≦n^n/n!≦n^n/2
が成り立つ.
ここで,
(1+1/n)^n
は増加数列で
2≦(1+1/n)^n≦e
あるので,スターリング近似の上限・下限が改良される.
n≦2^n(1+1/n)^-n≦n^n/n!≦n^n/2≦2(n/2)^n
(その38)(その39)では相加平均・相乗平均・調和平均不等式などを用いて,円に内接する正n角形の辺や対角線の長さに成り立つ不等式を求めた.等式の世界は面白いが,不等式の世界だって奥深いものがあるし,長さの2乗の和にとくに具体的な意味があるとは思えなかったからである.
今回のコラムでは粗製乱造した不等式の改良を試みたいのだが,果たして改良することはできるのだろうか?
[補]微分積分の入門書に「平面上に3つの定点A,B,Cがある.この平面上に点Pをとって,AP^2+BP^2+CP^2が最小になるようにせよ」という問題が偏導関数の応用例として載せられてる(その点Pは重心である).しかし,距離の2乗の和に特に具体的な意味があるようには思えない.むしろ,2乗を取り去ったほうが問題としては自然であって「A,B,C3軒の家に電線をひきたい.電線の長さを最小にするにはどこの柱を立てればよいか」ではAP+BP+CPを最小にする実用価値のある問題になる(求める点はをフェルマー点である).
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【1】問題点
正n角形が半径1の円に内接している.2次元の場合,
[定理1]ひとつの頂点からでるすべての辺と対角線の長さの積は頂点数に等しい.
Π(1,n-1)dj=n
[定理2]対角線の長さの平方の逆数の和公式
Σ(1,n-1)1/dj^2=(n^2−1)/12
[定理3]ひとつの頂点からでるすべての辺と対角線の長さの平方の和は頂点数の2倍に等しい.
Σ(1,n-1)dj^2=2n
が成り立つ(定理3は高次元でも成り立つ).
また,コーシー・シュワルツの不等式(u・v≦|u||v|)を適用すれば,
[定理4]長さの総和の2乗と長さの2乗の総和の間に
(Σ(1,n-1)dj)^2≦(n−1)Σ(1,n-1)dj^2=2n(n−1)<2n^2
が成り立つ.
しかし,相加平均・相乗平均・調和平均不等式
(a+b)/2≧√ab≧2ab/(a+b)
において等号が成り立つのは,a=bのときに限られるが,辺や対角線の長さは
dj=2sin(jπ/n)
で与えられるので,正三角形以外ではdi=djとはならない.
コーシー・シュワルツの不等式についても同様である.正方形以上であれば不等式を改良することができるが,正三角形を対象とする限り,改良は困難であると思われる.
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【2】雑感
トレミーの定理「円に内接する四角形の相対する辺の長さの積の和=対角線の積:AB・CD+AD・BC=AC・BD」を活用した改良はできないだろうか?
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