たとえば,三角級数:
y=a0 +a1 sinx+a2 cosx+a3 sin2x+a4 cos2x+・・・をあてはめる場合の係数行列は
・Σ1 Σsinx Σcosx Σsin2x Σcos2x ・
・ Σsin2x Σsinxcosx Σsinxsin2x Σsinxcos2x ・
XT X=・ Σcos2x Σcosxsin2x Σcosxcos2x ・
・ Σsin22x Σsin2xcos2x・
・ Σcos22x ・
となります.係数行列XT Xは対称行列であるため対角線より左下は省略しました.
フーリエ解析では三角関数の性質上,x側のデータを一定間隔ごと(例えば30°おきに)にサンプリングすると,直交関係
Σcos(kx)=0,Σsin(kx)=0,
Σcos(ix)cos(jx)=0,Σcos^2(kx)=n/2,
Σsin(ix)sin(jx)=0,Σsin^2(kx)=n/2,
Σsin(ix)cos(jx)=0
から非対角要素はすべて0になり,解を簡単に求めることができます.→コラム「平面代数曲線とライスの公式(その3)」参照
・n ・
・ n/2 0 ・
XT X=・ n/2 ・
・ 0 ・ ・
・ n/2・
三角関数の重要な性質として「直交性」があります.直交性をもつ関数は三角関数ばかりではなく,一般に,
積和の形が0になる式,Σφi(x)φj(x)=0
積分の形が0になる式,∫φi(x)φj(x)dx=0
なる性質をもっている関数が直交関数です.直交関数も三角関数の1種といえるかもしれません.
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【1】ルジャンドル直交多項式
ルジャンドルの直交多項式は水素原子の周りを回る電子の角運動量を表わす波動方程式として登場したもので,球対称性をもつ体系について偏微分方程式を解く際には必ずというほど登場する基本的な直交多項式です.そのため,三角関数が円関数と呼ばれるのに対し,ルジャンドルの多項式は球関数とも呼ばれます.
簡単に解説すると,母関数(1−2xt+t^2 )^-1/2をtのべき級数に展開したときのtj の係数がルジャンドル多項式であり,
(1−2xt+t^2 )^-1/2=Σφj(x)tj
ですから,
φ0(x)=1,
φ1(x)=x,
φ2(x)=(3x^2 −1)/2,
φ3(x)=(5x^3 −3x)/2,
φ4(x)=(35x^4 −30x^2 +3)/8,
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・,
φn(x)=1/(2n ・n!)d^n/dx^n(x^2 −1)n
で表わされます(ロドリーグ(Rodrigues)の公式).ここで,φn(x)はxの2n次の多項式をn回微分しますからxのn次式になり,n次のルジャンドル多項式と呼ばれます.
ルジャンドル多項式は,
φm φn =0 (m≠n:直交性)
(n+1)φn+1 −(2n+1)xφn +nφn-1 =0 (漸化式)
なる性質をもち,これらはφ0 およびφ1 から,漸化式
φn+1 =(2n+1)/(n+1)xφn −n/(n+1)φn-1
を使って順に作っていくことができます.
ルジャンドルの多項式は区間[−1,1]で定義されるものですが,xについての区間[a,b]で与えられる関数は,変数変換x=(b+a)/2+(b−a)/2tによって,tについての区間[−1,1]に容易に変換することができます.ルジャンドルの多項式は角運動量の量子化に用いられるなど,量子力学で非常に重要な役割を演じています.
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【2】直交多項式の利点
直交多項式系として最も代表的なものはルジャンドルの多項式の他にも,チェビシェフの多項式,ラゲールの多項式,エルミートの多項式があげられます.これらの方法の解説は割愛し,直交解法に関する良書に譲ることにします.
直交多項式のあてはめでは,以下のような利点があり,精度・速度ともに計算上の利点は大きいと考えられます.
a)回帰方程式の次数が高い場合でも,高精度の計算が可能である.
b)高次の次数のものを追加して求める場合にはじめから解き直す必要はなく,付け加える直交多項式の係数だけを計算すればよい.すなわち,y=a0 +a1 x+a2 x2 +・・・のような最小2乗法では各項が直交していないので,例えば,2次式のときのa1 と3次式のときのa1 は異なり,次数を変えるつど新たに計算し直さなければならないのだが,直交多項式y=a0 +a1 φ1 +a2 φ2 +・・・では高次の項を追加してもその項だけ計算すればよく,a1 は何次までとっても変わらない.
c)係数ai はi次式的なトレンドを表し,それぞれに数学的な意味付けが可能になってくる.たとえば,a1 は中央値,a2 はばらつき,a3 は歪度,a4 は尖度に対応する係数であり,高次成分には数学的な意味づけが少ない.
d)次数を何次までとれば十分であるか,換言すれば何次以降の回帰係数は0とみなせるかという検定が可能になる.
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