定規とコンパスだけで正3角形,正4角形,正6角形,正8角形が作図できることは簡単にわかりますが,辺の数5,7,9の場合はどうでしょうか.正5角形は古代ギリシャにおいて作図可能であることが発見されました.となれば,次に正7角形の作図は?と考えるのは自然な成り行きでしょう.ところが,かのアルキメデスでさえも正7角形の作図に成功しなかったといわれています.また,内接正多角形の作図は画家であり建築家であるレオナルド・ダ・ヴィンチの関心を惹きました.しかし,彼でさえ近似的な内接正七角形の作図を正確なものと思っていたようです.誰もが正七角形の作図問題に取り組んできたのです.
辺数3,4,5,6,8,10,12,15,16の正多角形は作図できますが,辺数7,9,11,13,14の正多角形は作図できないことから,正17角形もそうであろうと推察されます.ところが,1796年,ガウスは19才のときに正17角形の作図を思いつきました.正七角形の作図は不可能で,のみならず,nが素数の正n角形について,n=22^m+1が素数の場合に限り定規とコンパスだけで作図可能であることを発見しています.
正7角形も正9角形も作図できないのに,まさか正17角形が作図できるとはと思うのが普通なのでしょうが,このことを用いると,m=0のとき正3角形,m=1のとき正5角形,m=2のとき正17角形となり,作図可能であることがわかります.当然,ずっと面倒になるでしょうが,正257角形(m=3),正65537角形(m=4)も作図可能です.次に興味があるのはn=正4294967297角形(m=5)の場合ですが,あいにくこれは合成数です(フェルマーはこれが素数かどうかは示せなかった).
22^m+1の形の素数をフェルマー素数といいます.フェルマー素数はガウスによって1世紀にわたる眠りから覚まされ,数論と幾何学に新たな美しさを吹き込んだことになります.フェルマーはこの型の数がすべて素数だと勘違いしていて必ず素数を与える式として考え出されたのですが,m=5のときは素数ではなく,現在,m=0,1,2,3,4の5個以外にフェルマー素数はみつかっていません.6番目のフェルマー素数の探索がコンピュータを使ってなされていますが,はたして本当に存在するのでしょうか.
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正n角形の作図において,nは異なるフェルマー素数か2のベキ乗との積
n=2^kΠFm
でなければなりません.したがって,
[1]n=2,3,4,5,6,8,10,12,15,16,17,20,24,30 → 作図可能
[2]n=7,9,11,13,14,18,19,21,22,23,25 → 作図不可能
となって,幾何学的に解ける正奇数角形は,2^5−1=31通り,最大
3・5・17・257・65537=4294967295
角形まであります.
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正多角形の作図は円周等分問題という幾何学問題ですが,x^n −1=0という代数方程式の解と密接な関係にあります.また,定規とコンパスで描ける図形は直線と円ですから,その作図は線分の長さの加減乗除と平方根をとる操作に相当します.すなわち,定規(直線)とコンパス(円)による作図は,たとえそれらを繰り返し用いたとしても,+,−,×,÷,√なる5つの演算によって得られるものに限られています.
z^2−1=(z−1)(z+1)
z^3−1=(z−1)(z^2+z+1)
z^4−1=(z^2−1)(z^2+1)
は2次方程式に帰着できますが,n=5の場合
z^5−1=(z−1)(z^4+z^3+z^2+z+1)
の右辺には4次方程式があるので,一見不可能に見えますが,2次以下に因数分解できます.z+1/z=xとおけばよいのです.正5角形の作図は黄金比と関連していて,2次方程式:x^2 −x−1=0を解く,すなわち(√5+1)/2を求めることによって可能となりました.ギリシャ人は黄金分割を用いた見事な方法で正五角形の作図に成功したのですが,この方法は二次方程式の幾何学的解法を利用した賢明な方法といえます.
[補]ガウス平面で正5角形の頂点を表す4次方程式
x^4+x^3+x^2+x+1=0
の両辺をx^8でわり,
y=x+1/x=2cos(2π/5)
と変数変換すると2次方程式
y^2+y−1=0
に帰着され,
y=(√5−1)/2=2cos(2π/5)
cos(2π/5)=(√5−1)/4
が得られる.→コラム「初等幾何の楽しみ(その23)」参照
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z^6−1=(z^2)^3−1
z^8−1=(z^2)^4−1
なので,それぞれ正三角形,正方形に対する角度を求め,それを二等分することによって幾何学的に解けます.
z^9−1=(z^3)^3−1
は正三角形に対する角度を求め,それを三等分する必要がありますが,これは不可能です.
z^7−1=(z−1)(z^6+z^5z^4+z^3+z^2+z+1)
も幾何学的に解くのは無理です.正7角形,正9角形はそれぞれ3次方程式:x^3 +x^2 −2x−1=0,x^3 −3x+1=0に帰着します.したがって,正7角形,正9角形の作図のように3次方程式に帰着する作図問題は+−×÷√の演算を組み合わせても解けません.
n=10〜14は省略.n=15は2つの異なるフェルマー数の積です.実際,正三角形(120°)と正五角形(72°)の差48°の半分として正十五角形(24°)を幾何学的に作ることができます.n=51,85,355も異なるフェルマー数の積で作図可能です.
n=17の場合は,n=5の場合にもう1ステップ要しますが,全く同様に得ることができます.
[補]16次方程式
x^16+x^15+・・・・+x+1=0
の両辺をx^8でわり,
y=x+1/x=2cos(2π/17)
と変数変換をし,最後に2次方程式に帰着させると失敗する.
z=x^4+x+1/x+1/x^4
w=x^8+x^4+x^2+x+1/x+1/x^2+1/x^4+1/x^8
と変数変換する手がある.
ζ=cos(2π/17)+isin(2π/17)
y=ζ+ζ^-1=2cos(2π/17)
y’=ζ^4+ζ^-4
z=ζ+ζ^4+ζ^-1+ζ^-4
z’=ζ^2+ζ^8+ζ^-2+ζ^-8
w=ζ+ζ^2+ζ^4+ζ^8+ζ^-1+ζ^-2+ζ^-4+ζ^-8
w’=ζ^3+ζ^5+ζ^6+ζ^7+ζ^-3+ζ^-5+ζ^-6+ζ^-7
とおく.
x^16+x^15+・・・・+x+1=0
より,w+w’=−1,ww’=−4となるから,wはx^2+x−4=0の根. w=(√17−1)/2=1.56155
同様に,
z+z’=w,zz’=−1となるから,zはx^2−wx−1=0の根. z=(w+√(w^2+4))/2=(−1+√17+√(34−2√17))/4=2.04948
y+y’=z,yy’=ζ^3+ζ^5+ζ^-3+ζ^-5=z”,z”’=ζ^6+ζ^7+ζ^-6+ζ^-7とおくと,
z”+z”’=w’,z”z”’=−1
となるから,z”はx^2−w’x−1=0の根.
z”=(−1−√17+√(34+2√17))/4
yはx^2−yx+y”=0の根より,
y=2cos(2π/17)=1/8{−1+√17+√(34−2√17)+2√(17+3√17+√(170−26√17)−4√(34+2√17)}=1.86494
が得られる.→コラム「初等幾何の楽しみ(その24)」参照
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アルキメデスは円柱とそれに内接する球の体積比が3:2であることを発見した記念に,自分の墓の上に円柱の形をした記念碑をおくように遺言したといわれています.アルキメデスと同じように,ガウスは正17角形を墓石に彫るよう遺言しています.このことはガウス自身がその発見をいかに重視したかを物語っています.数々の大発見をしたガウスですが,19才の青年がアルキメデスをもってしてもできなかった古代ギリシア以来2000年の謎を解いたのですから,まさに驚きとしかいいようがありません.この正17角形の作図は彼を本格的に数学の道に入らせるきっかけとなったといわれています.
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