スターリングの公式
n! 〜 √(2πn)(n/e)^n
は通常解析的に証明されるが,組み合わせ輪的証明も試みられている.n^nは{1,2,3,・・・n}から{1,2,3,・・・n}へのinto写像,n!は{1,2,3,・・・n}から{1,2,3,・・・n}へのonto写像であるからだ.
一方,このシリーズでは図形的にどこまて近似できるかを試みてきた.n!は三角錐,n^nは立方体と関係していて,n^n/n!は1辺の長さnの立方体を切断した直角三角錐の体積になるからである.
しかしながら,超立方体,正軸体,正単体の体積はスターリングの公式を導出するのに有効には働かないので,別の体積可測なn次元立体(2^n+2n胞体)を構成し,その体積を比較することによって幾何学的近似を試みた.
図形的近似の精度は解析的証明の精度の及ばないのが普通である.図形的な方法では限界があるのだが,どれくらいの精度なのだろうかと考えるのは自然な成り行きであろう.今回のコラムでは,再度,解析的に得られた結果と図形的に得られた結果の誤差を比較をしてみたい.
===================================
【1】スターリングの図形的第1近似
もとのn次元正軸体の1象限の体積は1/n!.また,切頂後2個で1辺の長さ(2/n)の立方体ができるから,不等式
2^n/2≦n^n/n!≦2(n/2)^n
が成り立つことがわかる.この不等式は,スターリングの不等式から明らかかもしれないが,図形的に示すことができることは面白いだろう.
一方,
n!^2=(1・2・・・n)(n・・・2・1)=Πk(n+1−k)
Πn≦n!^2≦Π(n+1)^2/4
より
n^n/2≦n!≦(n+1)^n/2^n
2^n(1+1/n)^-n≦n^n/n!≦n^n/2
が成り立つ.
ここで,
(1+1/n)^n
は増加数列で
2≦(1+1/n)^n≦e
あるので,
2^n/2≧2^n(1+1/n)^-n
また,
n^n/2≦(n/2)^n≦2(n/2)^n
であることも明らかであろう.
以上より
2^n(1+1/n)^-n≦2^n/2≦n^n/n!≦n^n/2≦2(n/2)^n
===================================
【2】スターリングの図形的第2近似
n→∞のとき,切頂正軸体に対しては
r^2=1/(1.0652875n)
なる球がスターリングの公式
n^n/n! 〜 e^n/√(2πn)
の最良近似球になる.
球(r^2=1/n)は最適のものではないにせよ,かなりいい線をいっている近似球体であると思われるが,実際,図形的不等式[1]よりもよい近似
n^n/n! 〜 (8/π)^n・√π/(2n)
が得られた.
O記法では,相対誤差は
f(n)=g(n)(1+O(h(n)))
絶対誤差は
f(n)=g(n)+O(h(n)))
と表記される.Oはランダウの記号で,O(n)はnの1次のオーダー,O(n^2)はnの2次のオーダーという意味である.
πe=8,539・・・より
e^n/(8/π)^n=(πe/8)^n〜1+0.06747n=1+O(n)
e^n=(8/π)^n(1+O(n))
ではあるが
{e^n/√(2πn)}/{(8/π)^n・√π/(2n)}=1/π・e^n/(8/π)^n=1/π・(1+O(n))
となって,O記法定義通りの形にならないのであるが,おおよその誤差は知ることができるだろう.
===================================
【3】雑感
この空間充填多面体の面数は2^n+2nと指数関数的なので,球体と較べてもいい線をいっているのではないかと思われるが,2^n+2n胞体ではこのあたりが限界であろう.
この限界を超えるためには,面数2(2^n−1)の空間充填多面体(置換多面体,頂点数(n+1)!),あるいは空間充填多面体ではないが面数3^n−1(頂点数2^nn!)の多面体を使えばよりよい上界・下界評価が可能になるかもしれないが,計算はかなり面倒になるだろう.
===================================