■スターリングの公式の図形的証明?(その25)

 超立方体,正軸体,正単体の体積はスターリングの公式を導出するのに有効には働かないので,このシリーズでは別の体積可測なn次元立体(2^n+2n胞体)を構成し,その体積を比較することによって幾何学的証明を試みている.

 とはいっても,スターリングの公式は通常解析的に証明されるから,図形的証明の精度は解析的証明の精度の及ばないのが普通である.図形的な方法では限界があるのだが,どれくらいの精度なのだろうかと考えるのは自然な成り行きであろう.

 今回のコラムでは,解析的に得られた結果と図形的に得られた結果の誤差を比較をしてみたい.

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【1】図形的不等式

 もとのn次元正軸体の1象限の体積は1/n!.また,切頂後2個で1辺の長さ(2/n)の立方体ができるから,不等式

  2^n/2≦n^n/n!≦2(n/2)^n

が成り立つことがわかる.この不等式は,スターリングの不等式から明らかかもしれないが,図形的に示すことができることは面白いだろう.

 一方,

  n!^2=(1・2・・・n)(n・・・2・1)=Πk(n+1−k)

  Πn≦n!^2≦Π(n+1)^2/4

より

  n^n/2≦n!≦(n+1)^n/2^n

  2^n(1+1/n)^-n≦n^n/n!≦n^n/2

が成り立つ.

 ここで,

  (1+1/n)^n

は増加数列で

  2≦(1+1/n)^n≦e

あるので,

  2^n/2≧2^n(1+1/n)^-n

 すなわち,下限に関しては解析的不等式よりも図形的不等式の方が精度が高いのである.予期せぬ効能であった.一方,上限に関しては,

  n^n/2≦(n/2)^n≦2(n/2)^n

であることは明らかであろう.

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【2】図形的漸近近似式

  n!〜√(2πn)(n/e)^n

の相対誤差は割合にして1/(12n)くらいn!より小さい値を与える.もっと精密な近似は

  n!〜√(2πn)(n/e)^n{1+1/(12n)+1/(288n^2}−139/(51840n^3)+O(1/n^4)}

 この右辺は相対誤差の定義通りの形

  f(n)(1+O(1/n^4))

になっていないので,書き換えれば

  n!〜√(2πn)(n/e)^n{1+1/(12n)+1/(288n^2}−139/(51840n^3))}{1+O(1/n^4)}

また,絶対誤差は

  n!〜√(2πn)(n/e)^n+O(n^n-3.5e^-n)

になる.

 一方,n→∞のとき,

  r^2=1/(1.0652875n)

なる球がスターリングの公式の最良近似球になる.球(r^2=1/n)は最適のものではないにせよ,かなりいい線をいっている近似球体であるが,その精度は如何に?

  n!/n^n〜2(π/8)^n〜√(2n/π)(π/8)^n

であるから,

  n!〜√(2n/π)(πn/8)^n・π(8/πe)^n{1+1/(12n)+1/(288n^2}−139/(51840n^3))}{1+O(1/n^4)}

  n!〜√(2n/π)(πn/8)^n・π(8/πe)^n+O(n^n-3.5e^-n)

になるが,相対誤差・絶対誤差の定義通りの形

  f(n)(1+O(g(n)),f(n)+O(g(n))

にはならないので,定量的に評価しにくい,直観的には

  πe=8,539・・・より(π/8)^n≒(1/e)^n

程度の差ということになろう.

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【3】雑感

 この空間充填多面体の面数は2^n+2nと指数関数的なので,球体と較べてもいい線をいっているのではないかと思われるが,2^n+2n胞体ではこのあたりが限界であろう.

 この限界を超えるためには,面数2(2^n−1)の空間充填多面体(置換多面体,頂点数(n+1)!),あるいは空間充填多面体ではないが面数3^n−1(頂点数2^nn!)の多面体を使えばよりよい上界・下界評価が可能になるかもしれないが,計算はかなり面倒になるだろう.

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