「分割数」とは与えられた整数にどれだけ多くの分割があるのか(4=1+1+1+1,4=3+1)という整数の分割理論のことです.整数の分割では,3=2+1と3=1+2のように足し算の順序が違うものは同じと見なすことにします.たとえば,3を分割するには非増加数列で構成した3通りの方法,3=2+1=1+1+1がありますから,p(3)=3,4を分割するには非増加数列で構成した5通りの方法,4=3+1=2+2=2+1+1=1+1+1+1がありますから,p(4)=5.同様にして,5=4+1=3+2=3+1+1=2+2+1=2+1+1+1=1+1+1+1+1よりp(5)=7となります.
p(0)=1,p(1)=1,p(2)=2,p(3)=3,p(4)=5,p(5)=7,p(6)=11,
p(7)=15,p(8)=22,p(9)=30,p(10)=41,p(11)=56,p(12)=77,・・・
ここで,p(n)はオイラーの分割関数とも呼ばれますが,定義が簡単そうにみえるにも関わらず,易しい式で表すことはできません.
p(n)を評価する問題は数論において研究されていて,1918年,ハーディーとラマヌジャンによって,円周法による漸近近似式:
p(n) 〜 1/4n√(3)exp(π√(2n/3))
が与えられています.
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【1】オイラーの分割関数
たとえば,正の整数nに対して,
n=k1+2k2+3k3 (k1≧0,k2≧0,k3≧0)
となる解(k1,k2,k3)の個数をanとします.n=5の場合,
1+1+1+1+1 → (5,0,0)
1+1+1+2 → (3,1,0)
1+1+3 → (2,0,1)
1+2+2 → (1,2,0)
2+3 → (0,1,1)
ですから,a5=5となります.
a0=1,a1=1,a2=2,a3=3,a4=4,a5=5,・・・
このとき,母関数は
f(x)=Σanx^n=Σx^(k1+2k2+3k3)=Σx^k1Σx^2k2Σx^3k3
=1/(1−x)・1/(1−x^2)・1/(1−x^3)
となります.
(1−x)(1−x^2)(1−x^3)Σanx^n=1
ですから,各項の係数を比較すると漸化式
an=an-1+an-2−an-4−an-5+an-6
を得ることができます.
a6=7,a7=8,a8=10,a9=12,a10=14,a11=16,・・・
この問題を一般化して
n=k1+2k2+3k3+・・・ (k1≧0,k2≧0,k3≧0,・・・)の個数p(n)を考えます.n=5の場合,a5に
1+4,5
が加わり,p(5)=7となります.
このことから,分割数は以下の公式によって代数的に定義することができることがわかります.
f(x)=Π(1-x^n)^(-1)={(1-x)(1-x^2)・・・(1-x^n)・・・}^(-1)
=(1+x+x^2+・・・)(1+x^2+x^4+・・・)(1+x^3+x^6+・・・)(1+x^4+x^8+・・・)・・・
=Σp(n)x^n=1+p(1)x+p(2)x^2+p(3)x^3+・・・
すなわち,f(x)は分割関数p(n)の母関数で,p(n)はx^nの係数になっています.
x^k1を第1因子(1+x+x^2+・・・)の一般項,x^2k2を第2因子(1+x^2+x^4+・・・)の一般項,x^3k3を第3因子(1+x^3+x^6+・・・)の一般項,・・・とすると,
n=k1+2k2+3k3+・・・
となって,x^nの項が整数nの分割に対応することになるのですが,オイラーはこのようにしてp(n)の母関数
f(x)=Π(1-x^n)^(-1)={(1-x)(1-x^2)・・・(1-x^n)・・・}^(-1)
=Σp(n)x^n=1+p(1)x+p(2)x^2+p(3)x^3+・・・
を得たというわけです.
[補]オイラーは4平方和定理
「すべての正の整数は4個の整数の平方和で表される」
を証明するために,級数1+2Σx^(n^2)を考察しているのですが,このアイディアは,nの分割がnをk個の平方数の和への分割(nが平方和として何通りに書けるか):
n=□1+□2+・・・+□k
として表した場合の解と1対1に対応することに拠っています.
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【2】分割数の近似式
このことより,
f(x)=(1+x+x^2+・・・)(1+x^2+x^4+・・・)(1+x^3+x^6+・・・)・・・
=Π(1-x^n)^(-1)
そして,
f(x)=Π(1-x^n)^(-1)={(1-x)(1-x^2)・・・(1-x^n)・・・}^(-1)
=Σp(n)x^n=1+p(1)x+p(2)x^2+p(3)x^3+・・・
の恒等式は,1918年にハーディーとラマヌジャンによって,p(n)の漸近式を見いだすのに利用されることになるのです.
分割関数p(n)は整数値をとりますが,分割数を表す簡単な公式はありません.しかし,前述したようにラマヌジャンが予想した注目すべき近似式が知られています.
p(n) 〜 1/4n√(3)exp(π√(2n/3))
p(n)≦p(n-1)+p(n-2)
が成り立つことより,分割数の増大速度はファイボナッチ数で上から抑えられることが示されます.したがって,黄金比φ=(√5+1)/2とおくと上界は
p(n)<φ^n.
ここでは
[参]マトウシェク・ネシャトリル「離散数学への招待」シュプリンガー・フェアラーク東京
にしたがって,p(n)の粗いがそれなりによい評価式を求めてみたいと思います.
無限乗積のままでは扱いにくいので,有限乗積
fn(x)=Π(1-x^n)^(-1)
を使ってp(n)を評価してみましょう.
[1]上界について
すべての(0,1)なるxに対して
p(n)≦fn(x)/x^n=1/x^nΠ(1-x^n)^(-1)
が成り立ちます.この右辺の値がなるべく小さくなるようにxを選びたいのですが,まず対数をとると
lnp(n)≦-nlnx-Σln(1-x^k)≦-nlnx+x/(1-x)Σ1/k^2
ここで,
Σ1/k^2=ζ(2)=π^2/6
ですから
lnp(n)≦-nlnx+π^2/6x/(1-x)
u=x/(1-x) u=0~∞
と変数変換すると
lnp(n)≦-nln(1+1/u)+π^2/6u
また,不等式1+x≦exp(x)よりln(1-1/u)≦1/uですから,
lnp(n)<-nln(1+1/u)+π^2/6u≦n/u+π^2/6u
n/u+π^2/6u
が最小となるのはn/u=π^2/6uすなわちu=√(6n)/πのときで,
lnp(n)<π√(2/3n)
より,
p(n)<exp(π√(2/3n))
が成り立つことが証明されます.
この上界は
p(n) 〜 1/4n√(3)exp(π√(2n/3))
の指数部分と一致し,かなりよい評価であることがわかります.
[2]下界について
自然数nを順序つきk分割する総数は
(n-1)C(k-1)=(n-1,k-1)
また,順序のないk分割のそれぞれから高々k!個の順序つきk分割が作れますから,
p(n)≧(n-1,k-1)/k!≧(n-1)(n-2)・・・(n-k+1)/(k!)^2
が成り立ちます.
kを1増やせば分母は(k+1)^2倍され,分子は(n-k)倍されるので,最良の下界を与えるためには(k+1)^2≒n-kより
k≒[√n]
このとき,
(n-1)(n-2)・・・(n-k+1)≧(n-k)^(k-1)=n^(k-1)(1-k/n)^(k-1)
k≒[√n]より,k/n≦1/kですから
(1-k/n)^(k-1)≧(1-1/k)^(k-1)
したがって,
n^(k-1)(1-k/n)^(k-1)≧n^(k-1)(1-1/k)^(k-1)≧n^k/en
スターリングの公式の漸近評価の項で述べた,
k!≦ek(k/e)^k
が成り立つので,
p(n)≧(n/k^2)^kexp(2k-3)/nk^2≧exp(2k-3)/n^2≧exp(2√n)/exp(5)n^2
以上により,
exp(2√n)/exp(5)n^2≦p(n)≦exp(π√(2/3n))
小生は事前に
exp(π√(2/3n))/n^2≦p(n)≦exp(π√(2/3n))
のような形を予想していたのですが,ほぼ一致する結果です.
したがって,十分大きなnに対しては
exp(c1√n)≦p(n)≦exp(c2√n)
となる評価が得られたことになります.ラマヌジャンの結果より粗いのですが,関数の増加に対するオーダーがわかればそれでよしとしましょう.
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【3】分割数の近似式・再考
実は,円周法に基づく漸近公式の結果を正確に証明するだけでも,長くてこみ入った理論が必要になります.そこで漸近公式の概要だけを簡単に述べますが,σ(k)をkの約数の和とすると,p(n)に対する漸化式
p(n)=1/nΣσ(k)p(n-k)
において,σ(k)の漸近的振る舞い
1/n^2Σσ(k)〜π^2/12
を用いると,nが大きい場合の分割数の漸近挙動
p(n)〜exp(π√(2n/3))/4n√3
を得ることができます.このことから,p(n)は準指数関数と考えることができます(p(n)^(1/n)→1).
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【4】おまけ
n=243の場合,p(243)=133978259344888に対して
p(n)〜exp(π√(2n/3))/4n√3〜1.38×10^14
ラマヌジャンはp(n)が満たす合同式について
p(5n+4)=0 mod5
p(7n+5)=0 mod7
p(11n+6)=0 mod11
p(599)=0 mod5^3
p(721)=0 mod11^2
を予想し,それらを証明しています.
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