[1]単一種による空間充填
[2]複数の種類による空間充填
[3]非空間充填
と分類すると,4次元での空間充填の性質から
[1]8胞体,16胞体,24胞体(これらはどれもRPから構成できる)
[2]なし
[3]5胞体,120胞体,600胞体
に分類される.
[2]のケースは非常に微妙である.4次元では[2]なしだったからよかったものの,3次元あるいは5次元以上でもうまくいくのだろうか?
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【1】3次元の場合
3次元では
[1]立方体
[2]正四面体+正八面体
[3]正12面体,正20面体
に分類される.
2種類の立体で空間充填形ができても,両方をうまく組み合わせてその次元の立方体ができるとは限らず,また,もとの2種類がさらに分割して同一の素片から組み立てられるとも限らない.3次元空間での正八面体と正四面体による空間充填がその典型例であると思われるが,確かめてみよう.
正四面体,正八面体をそれぞれP,Qとし,そのデーン不変量をD(P),D(Q)で表すことにする.P,Qは1種類の元素で構成できるものと仮定すると
P=a1α,Q=b1α (a,bは整数)
デーン不変量の線形加法性より,
D(P)=a1D(α)
D(Q)=b1D(α)
L・D(P)=M・D(Q)
L’δ4=M’δ8 (mod π)
(L,M,L’,M’は整数)
が成り立たなければならないが,δ8=π−δ4より
N1δ4=0 (mod π)
となり矛盾を生じる.すなわち,もとの正八面体と正四面体がさらに分割して同一の素片から組み立てられることはないのである.
しかしながら,両方をうまく解体再編すると立方体ができるので,[1][2][3]を合わせると元素数≧4となる.
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【2】5次元以上の場合
超立方体は各次元で空間充填形[1]である.[2]の空間充填形として2種の胞間の角の和が360°になるのは,n≧5のとき,8次元の
[1]8次元立方体
[2]8次元正四面体+8次元正八面体
[3]なし
の場合だけであることがわかっている.
したがって,8次元を除くと
[1]超立方体
[2]なし
[3]正軸体,正単体
となり,元素数=3は確定である.
8次元の場合,正単体,正軸体をそれぞれP,Qとし,そのデーン不変量をD(P),D(Q)で表すことにする.P,Qは1種類の元素で構成できるものと仮定すると
P=a1α,Q=b1α (a,bは整数)
デーン不変量の線形加法性より,
D(P)=a1D(α)
D(Q)=b1D(α)
L・D(P)=M・D(Q)
L’δs=M’δo (mod π)
(L,M,L’,M’は整数)
が成り立たなければならないが,δo=π−δs/2より
N1δs=0 (mod π)
となり矛盾を生じる.すなわち,もとの正軸体と正単体がさらに分割して同一の素片から組み立てられることはないのである.
また,両方をうまく解体再編しても(E8格子にはなるが)8次元立方体はできないので,[1][2][3]を合わせると元素数=3となる.
[補]正確にいうと,単独で8次元空間の充填形になるのはE8格子のボロノイ領域となる8次元の平行多面体(平行移動で面を貼り合わせて空間充填形になる)で,それは17280個の正単体の1/9(ひとつの頂点が最も近い部分)と2160個の正軸体の1/16(ひとつの頂点が最も近い部分)から成り立つ.
この充填形では,正軸体の1つおきの胞に正単体が続き,他の半分の胞は正軸体同士が接する.格子点として1つの格子点を中心にその隣(距離1)の240個の頂点を結んでできる8次元の「亜正多面体」は次のような構造をしている.
頂点240個,辺6720(240×28)本
面(正三角形)60480(6720×9)枚
3次元胞(正四面体)241920(60480×4)個
4次元胞(正五胞体)241920(60480×4)個
5次元胞(正単体)483840個
6次元胞(正単体)207360個
=483840×3/7=240×864
=(17280×8+2160×2^7)/2
7次元胞:各6次元胞に正軸体2個と正単体1個が合わさり
正単体が17280個,正軸体が2160個
その体積は
正単体の体積3/2^48!×1/9×17280=1/112
正軸体の体積2^4/8!×1/16×2160=6/112
の合計(1+6)/112=1/16で,案外簡単な数になる.→コラム「E8格子のボロノイ領域」参照
ともあれ,この図形を分解して,ひとつの素片だけから組み立てようというのは無理であることが証明されたことになる.
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【3】背理法=矛盾の解消法
空間充填の性質から
[1]単一種による空間充填
[2]複数の種類による空間充填
[3]非空間充填
と分類した.4次元では[2]なしだったからよかったものの[2]のケースは非常に微妙である.
2種類の立体で空間充填形ができても,両方をうまく組み合わせてその次元の立方体ができるとは限らない(3次元ではこれが可能であったため,元素数がひとつ減少した).また,もとの2種類がさらに分割して同一の素片から組み立てられるとも限らない(3次元,8次元とも不可能であった).そのあたりを背理法を使って矛盾を暴きだす必要があった.
ところで,矛盾とは「韓非子」からの故事成語である.辻褄が合わないこと,筋道が通らないこと,理に背くことの意.素数が無限に存在すること・√2が無理数であることは,ギリシア数学のなかでも有名な定理で,それぞれユークリッドとピタゴラスが背理法を用いて証明している.
余談であるが,同じ数学的結果であっても,個人的な趣味(重要度の価値判断)によってはTheoremにもなるし,Propositionにもなるし,Lemmaにもなるし,Corollaryにさえなり得る.数学自身が矛盾を内包しているように思える.厄介な問題かもしれないが,表現を統一することはできないものだろうか?
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