■調和級数の整除性

 調和級数Hn=Σ(1/n)は非常にゆっくりとですが大きくなり,ついには無限大に発散すること,すなわち,

  1/1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n〜logn→∞

は容易に示すことができます.

 ここで,n番目の調和数を

  Hn=1/1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n

と定義すると,H1=1,H2=3/2,H3=11/6,・・・,H∞=∞となります.

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【1】タイシンガーの問題

 それでは,・・・

(問)n>1ならば,

  Hn=1/1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n

は決して整数にはならないことを示せ.   (タイシンガー,1915年)

 たとえば,分母が2のべき乗になっている項のうちで,その指数が最大のものを考えると,それと組になる項がどこにもありません.このことから,Hnは分子が奇数で,分母が偶数の分数になるのですが,このことをきちんとした形で書いてみましょう.

(証)2^k≦nとなる最大の指数をk,Pをn以下のすべての奇数の積とすると,

  2^(k-1)PHn

 =2^(k-1)P(1/1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n)

は,2^(k-1)P/2^k以外の項はすべて整数となる.

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【2】ベルトランの仮説「nと2nの間に素数がある」

 これに対して,別証を与えてみましょう.

(問) Hn=1/1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n≠整数

(別証)n未満のnにもっとも最も近い素数p(>n/2に必ずある:ベルトラン・チェビシェフの定理「nと2nの間に素数がある」)を考える.Pをp未満のすべての素数の積とすると,

  PHn=p(1/1+1/2+1/3+・・・+1/p+・・・+1/n)

 このとき,1/pは分母にpが残り,1/pは他に打ち消す項がないので整数になりそうもありません.nが素数ならもちろん整数でない.合成数でも奇数の素因子があれば分母に残る.これはおおざっぱですが,これを精密化すれば完全な証明になりそうです.

 ベルトランの仮説については,コラム「ベルトラン・チェビシェフの定理とエルデシュによる初等的証明」をご参照下さい.

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【3】類似問題

 タイシンガーと類似の問題としては,

(問) 1/(a+1)+1/(a+2)+・・・+1/(a+n)

は決して整数にはならない   (クルシュチャク,1918年)

(問) 1/(a+d)+1/(a+2d)+・・・+1/(a+nd)

は決して整数にはならない   (エルデシュ,1932年)

などがあげられます.

 たとえば,

(問)Sn=1/1+1/3+1/5+1/7+・・・+1/(2n+1)

と定義すると,S1=1,S2=4/3,S3=23/15,・・・,S∞=∞となります.それでは,n>1ならば,Sn は整数にはならないことを示せ.

(証)3^k≦2n+1となる最大の指数をk,Pを6と互いに素かつ2n+1以下のすべての整数の積とすると,

  3^(k-1)PSn

 =3^(k-1)P(1/1+1/3+1/5+1/7+・・・+1/(2n+1))

は,3^(k-1)P/3^k以外の項はすべて整数となる.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

  Sn=1/(a+d)+1/(a+2d)+・・・+1/(a+nd)

において,a=1の場合は次のように一般化することができる.

(証)(d+1)^k≦dn+1となる最大の指数をk,Pを(d+1)!と互いに素かつdn+1以下のすべての整数の積とすると,

  (d+1)^(k-1)PSn

は,(d+1)^(k-1)P/(d+1)^k以外の項はすべて整数となる.

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【4】ウォルステンホルムの定理

 さらに,類似の問題としては,ウォルステンホルムの定理

 「pが2,3以外の素数ならば有限調和級数(既約分数)

  1+1/2+1/3+・・・+1/(p−1)

の分子はp^2で割り切れる.」

があげられます.たとえば,p=5のとき,この分数は25/12となり,その分子はp^2で割り切れます.

(Q)p>3が素数ならば,既約分数

  1+1/2+1/3+・・・+1/(p−1)

の分子はp^2で割り切れることを証明せよ(ウォルステンホルムの定理,1862年).

(A)素数pによる整除性ではなく,素数の平方p^2による整除性なのでかなり難しい問題である.そこで,素数による整除性の問題に帰着させてより解きやすいものにしたい.そこでまず

  1+1/2+1/3+・・・+1/(p−1)=0  (mod p)

を証明するしよう.

  1+1/2+1/3+1/4=1+3+2+4=0  (mod 5)

であるが,

  4=−1,3=−2  (mod 5)

を使えば,

  1+1/2+1/3+1/4=1−2+2−1=0  (mod 5)

同様に,

  p−1=−1,p−2=−2,・・・  (mod p)

であるから

  1+1/2+1/3+・・・+1/(p−1)=0  (mod p)

を証明することができる.

 次に,1/1と1/(p−1),1/2と1/(p−2),・・・をペアに組ませると

  1+1/2+1/3+・・・+1/(p−1)  (mod p^2)

 =1+1/(p−1)+1/2+1/(p−1)+・・・+1/(p−1)/2+1/((p+1)/2)

 =p(1/(p−1)+1/2(p−2)+・・・+1/(p−1)/2+(p+1)/2)  (mod p^2)

 したがって,

 1/(p−1)+1/2(p−2)+・・・+1/(p−1)/2+(p+1)/2=0  (mod p)

  p−1=−1,p−2=−2,・・・  (mod p)

であるから,

 1/1^2+/2^2+1/3^2+・・・+1/(p−1)^2=0  (mod p)

が成り立つことをを示しさえすればよい.

 1/1^2+/2^2+1/3^2+・・・+1/(p−1)^2=1^2+2^2+3^2+・・・+(p−1)^2=(p−1)p(2p−1)/6=0  (mod p)

となって証明了.

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【5】雑感

 タイシンガーの問題はベルトランの仮説を使っても示すことができるのですが,ウォルステンホルムの定理を使って示すことはできないものでしょうか?

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