■4次元正多胞体による空間充填と元素定理

 高次元空間では直観がほとんどきかず,座標で計算することが基本になる.4次元正多胞体の二面角もその例である.

  正5胞体 → cosδ5=1/4,sinδa=√15/4 (75°ほど)

  正8胞体 → cosδ8=0,sinδ8=1 (90°)

  正16胞体 → cosδ16=−1/2,sinδ16=√3/2 (120°)

  正24胞体 → cosδ24=−1/2,sinδ24=√3/2 (120°)

  正120胞体 → cosδ120=−(√5+1)/4,sinδ120=(10−2√5)^1/2/4 (144°)

  正600胞体 → cosδ600=−(3√5+1)/8,sinδ600=(√15−√3)/8 (165°ほど)

である.

 正5胞体(cosδ1=1/4,sinδ1=√15/4)と正600胞体の二面角(cosδ2=−(3√5+1)/8,sinδ1=(√15−√3)/8)を足すと240°になることに注意.

  cos(δ1+δ2)=cosδ1cosδ2−sinδ1sinδ2=−1/2

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【1】デーン不変量

 分解合同の場合は有理係数での独立性が問題となる.6種類の正多面体での分解合同(分解相似?)の関係式は,

  N1δ5+N2δ8+N3δ16+N4δ24+N5δ120+N6δ600≠0  (mod π)

と書くことができるが,δ600=4π/3−δ5より,

  N1δ5≠0  (mod π)

とより簡潔に書くことができる.

 この証明は,コラム「デーン不変量と二面角の幾何学(その16)」に譲るが,このことから4次元の正多胞体の元素数は≧2であることがいえるものの煮えきらない結果である.

 この方法で証明できれは強い意味で証明できたことになり,かっこいいのであるが,牛刀割鶏の感あり.正多面体をどのように分解し接合しても元素数はこれ以上減らせないという最小元素数を求めるのに,細分化する元素数に上限を設けない分解合同は無用の長物ということになろう.

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【2】頂点による包含関係(inclusion property)

 頂点の関係から,6種類の4次元正多胞体の包含関係(巡礼)をまとめると,

  正16胞体≦正8胞体≦正24胞体≦正600胞体≦正120胞体

  正5胞体≦正120胞体

となる.すなわち,正120胞体の頂点をうまくとると,他の正5,8,16,24,600胞体をすべて作ることができる.その意味で,正120胞体は4次元の「万有正多面体」である.

 なお,120÷5=24なので,一見正600胞体の120個の頂点からうまく選べば正5胞体が24個含まれても良いように見えるが,正600胞体の頂点を結んでも同じ中心をもつ正5胞体は作れない.4次元正多胞体の中で正5胞体は何か異端児である.

 ともあれ,頂点による包含関係が確定したところで,4次元正多胞体の元素を構成することにしたい.正600胞体は正24胞体のroofをなすが,正120胞体は正600胞体のroofをなすと同時に,正5胞体のroofもなす.3次元の場合でいえばδが2個あるようなもので,正5胞体と正120胞体をそれぞれ単独でひとつの元素とみなしても同じことである.

 実際,正16胞体と正8胞体の間のroofをRPとすると

  RP16個 → 正16胞体

  RP24個 → 正8胞体

  RP192個→ 正24胞体

となり,4種類の元素(RP,正5胞体,正600胞体,正120胞体)があればすべての4次元正多胞体を構成できることがわかった.「4次元正多胞体の元素数は≦4である」ことが証明されたことになる.

 この構成法はbest possibleと考えられ,4次元正多胞体をどのように分割し,接合しても元素数は4より減らせそうにないことから

  [予想]4次元正多胞体の元素数は4である.

と予想される.この状況をなんとか打破することはできないだろうか?

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【3】空間充填(tessellation property)

 一方,空間充填形ができるための必要条件は,二面角の和が2πであることである.

  N1δ5+N2δ8+N3δ16+N4δ24+N5δ120+N6δ600=2π

これはデーン不変量を弱めたものであることがわかるだろう.

 空間充填との関係から弱い意味での証明の方が,細分化する元素数の上限が正多面体数である場合の最小元素数の決定に適していることが理解される.正多面体の元素定理が「空間充填」と「分解合同」の中間に位置しているとは,このような意味である.

 これを満たす整数解は(N1,N2,N3,N4,N5,N6)=(0,4,0,0,0,0)(0,0,3,0,0,0)(0,0,0,3,0,0)(1,0,1,0,0,1)であるが,(1,0,1,0,0,1)は局所的空間充填であっても大域的空間充填ではない.

[1]単一種による空間充填の例

[2]複数の種類による空間充填例

[3]非空間充填例

と分類すると,4次元での空間充填の性質から

[1]8胞体,16胞体,24胞体(これらはどれもRPから構成できる)

[2]なし

[3]5胞体,120胞体,600胞体

の4群に分類される.

 inclusion propertyとtessellation propertyを考え併わせると,元素数4以上ということになる.

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