ペンタドロンを二分割して三角柱に解体再編することができる.ところで,ペンタドロンには中心線に対して左右対称な面が2つ(直角二等辺三角形面と凧型面)があるが,中心線に沿って3分割して対称面を接合して別の立体に解体再編することはできないだろうか?
中川宏さんに検討してもらったが,凸立体にならないとのことだった.しかし,切り分ける個数を増やせば元の表面に対して置き換える面が増えるので,何らかの凸立体が蝶番かえしでできる可能性はないとはいえない.デーン不変量にかわるインバリアントを導入したいところである.これまで調べてきたリバーシブル分解合同に関する問題をまとめてみたい.
===================================
【1】ゾノトープか平行多面体か
ゾノトープとはn次元立方体のアフィン射影による像のことである.また,置換多面体は(n+1,2)次元の立方体のアフィン射影で,単純ゾーン多面体であるから,中心対称で面はすべて重心に関して中心対称なzonohedronである.すなわち,n次元置換多面体は平行多面体の定義を満たしている.
平行多面体とは,平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる単独の多面体であって,3次元格子から決まる本質的なボロノイ領域は,ロシアの結晶学者フェドロフの見つけた5種類の平行多面体−−立方体(平行6面体を含む),6角柱,菱形12面体,長菱形12面体,切頂8面体しかない.このうち,6角柱,菱形12面体は4次元立方体,長菱形12面体は5次元立方体,切頂8面体は6次元立方体を3次元空間に投影したものと一致する.
ゾーン多面体とは立方体のアフィン射影で表される多面体であるが,これらの平行多面体はゾーン多面体の定義を満たしていることになる. 切頂八面体からあるゾーンを抜くと,長菱形二十面体→菱形十二面体,六角柱→立方体になるので,これらは一連のゾーン多面体と考えることができる.
立方体のすべての稜は3方向,菱形十二面体,六角柱では4方向,長菱形十二面体では5方向,切頂八面体では6方向を向く.一般にn次元平行多面体ではn方向〜n(n+1)/2方向を向くことになるが,それに伴って胞数は2n〜2(2^n−1),頂点数は2^n〜(n+1)!という構成になっている.
2≦k≦n−2に対して,すべてのk面が中心対称なのは,ゾーン多面体の限られる.ただし,k=n−1が中心対称であるとしても,その多面体がゾーン多面体であるとは限らない(たとえば,4次元正24胞体).ゾノトープという性質はアフィン射影で保存される.また,ゾーン多面体は一般に単純多面体ではない.たとえば,菱形12面体は8個の頂点は単純であるが,残り6個の頂点は単純ではない.
[Q]平行多面体は常にゾノトープか? その逆はどうだろうか?
===================================
【2】菱形多面体
合同な菱形だけでできている多面体を菱形多面体と呼びます(以下ではこの菱形六面体A6,O6を除いて考えることにします).ケプラーは複合多面体から対角線の比が白銀比になっている菱形十二面体と対角線の比が黄金比になっている菱形三十面体を発見しました.
ケプラーは,すべての面が合同な菱形である菱形多面体はこれら以外にはないことを証明しようとしたのですが,実はあと2つ,1885年,フェドロフが発見した菱形二十面体と1960年にビリンスキーが発見した菱形十二面体第2種があります.これらはコクセターにより,A6(acute),O6(obtuse),B12(Bilinsky),F20(Fedrov),K30(Kepler)と名づけられていて,それぞれ3次元から6次元までの立方体の投影の外殻になっています.
1種類の立体による空間充填形がもっと高い次元の立方格子の射影であるというのは本質的に正しく,立方体以外の単一多面体による空間充填体としては,菱形十二面体や切頂八面体がよく知られています.たとえば,切頂八面体には6組の平行な辺があり,6次元立方体の射影と考えることができます.同様に,菱形十二面体は4次元立方体を3次元空間に投影したもの,2次元充填図形である正6角形は3次元立方体を2次元平面に投影したもの,4次元空間充填30胞体は10次元立方体を4次元空間に投影したものとなっているわけです.
菱形のすべての稜は2方向,菱形六面体のすべての稜は3方向,菱形十二面体では4方向,菱形三十面体では6方向を向いているのですが,菱形二十面体では5方向,菱形十二面体(第2種)では4方向を向いています.これらはn次元立方体を3次元空間に投影したものと考えることができます.菱形30面体は6次元空間における立方体の3次元版,菱形12面体は4次元空間における立方体の3次元版に相当するというわけです.
一般にすべての稜がn方向を向くとき,面数はf=n(n−1)となります.
f=n(n−1)=2,6,12,20,30,42,56,・・・
e=2n(n−1)
v=n(n−1)+2
なお,菱形90面体は合同な菱形だけでできている菱形多面体ではありませんが,対角線の長さの比が1:τ^2(2.618)の菱形30枚と白銀菱形60枚から構成される美しい形の多面体です.菱形90面体は10次元空間における立方体の3次元版に相当します.
また,菱形132面体は3種類の菱形からなり,12次元空間の立方体を3次元空間に射影したものに相当する多面体です.
[Q]たとえば菱形30面体は空間充填多面体ではないが,リバーシブル分解合同だろうか?
===================================
【3】問題点の整理
[1]平行多面体は空間充填多面体のある種のクラスであるが,空間充填多面体は常にリバーシブル分解合同だろうか?
[2]中心対称かつすべてのファセットが中心対称である多面体は,リバーシブル分解合同か? (そうではない)
[3]そのn次元版「n次元平行多胞体は常にリバーシブル分解合同である」ことはいえるだろうか?
===================================