■分割の幾何学におけるいくつかの定理(その2)

 コラム「分割の幾何学におけるいくつかの定理」では「平面分割」,「空間分割」の幾何学における定理をいくつか紹介したが,今回のコラムではその発展形も含めて途中経過の結論を加筆することにした.

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【1】ボヤイ・ゲルヴィンの定理(1833年)

 「等積な2つの平面図形は分解合同である」(ボヤイ・ゲルヴィンの定理)

 任意の三角形を平行四辺形に直す→長方形に直すことは小学校の教科書にも載っている方法ですが,平面上に面積の等しい2つの多角形が与えられたとき,どちらにも組み立てられる有限個の小片が必ず存在します.

 正五角形や正六角形を切り刻んで正方形に再構成する仕方も知られています.また,正六角形をいくつかの小片に切り離して並び替え正八角形をつくることや星形を正方形にかえることも可能です.

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【2】ハドヴィガー・グリュールの定理

 スイスの何人か幾何学者がボヤイ・ゲルヴィンの定理を深く掘り下げて,新しい結果を得ました.

 「平面上に面積の等しい2つの多角形が与えられたとき,一方を有限個の断片に切り分けて,平行移動と180°回転(点対称移動)だけを許して並び換え,もう一方を作ることができる.」

 すなわち,平面図形の分割では,有限個の断片の位置にある条件を課することができるのです.たとえば,デュドニーのカンタベリー・パズルは正三角形をそれと等積の正方形に直す問題ですが,その際,正三角形の周は正方形の内部に移り,正方形の周は正三角形の内部の点だけから構成されています.この定理は「平面ハトメ返し」による分割合同=リバーシブル分割合同に対応していると考えられます.

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【3】デーンの定理(1901年)

 「正四面体と直方体は(たとえ同じ体積をもっていたとしても)分割合同ではない」

 このことは,二面角δがπとは通約できない(cosδ=1/3ならばδはπの有理数倍ではない),すなわち,0でない整数n1,n2に対して

  n1δ+n2π=0

が成り立たないことを使って証明されます.

 もちろん,等積であっても分解合同でない2つの多面体は他にも見つけられます.また,デーンの定理から,ガウスの問題「同じ底面積と高さをもつ2つの三角錐は分割合同か?」に対する否定的解決

  「同じ底面積と高さをもつ2つの三角錐は分割合同ではない.」

ことも証明されます.同様に,そのn次元版「等積なn次元正単体とn次元直方体とは分解合同にならない」ことが結論されます.

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 同じ体積の2つの多面体は常に分解合同であろうか? 1900年,ヒルベルトは体積の等しい2つの多面体が切断によって合同かどうかを国際数学者会議での問題として問いかけました.それに対して,1901年,デーンは体積の等しい立方体と正四面体は切断によって合同でないという結果を証明しました.

 「多面体では体積が等しくても分解合同でないものが存在する」のです.任意の三角形は長方形と分割合同であることが証明されるので,デーンの定理は2次元と3次元の違いを際立たせていることになります.

 デーンを有名にしたこの定理は,パリの国際数学者会議(1900年)においてヒルベルトが提出した第3問題を直後に否定的に解決したものです.第3問題「分解合同・補充合同でない2つの多面体の存在を示せ」の背景には,ユークリッドの原論にみられる面積と体積の理論を幾何学の厳密な公理の上に再構成しようとしたヒルベルトのプログラム(幾何学基礎論)が潜んでいるのですが,それに対する否定的な解答がデーンの定理というわけです.

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【4】シドラーの定理と分解合同な多面体

 「2つの多面体が分割合同のときだけに限り,それらは補充合同である.」

 「2つの多面体が補充合同ならば,それらは分割合同である.」

 デーンの定理により,一般には同じ体積をもつ他の多面体には組み替えられないのですが,等積な2つの多面体はどんなものでも分解合同ではないという意味ではありません.

 菱形十二面体と直方体の間の立体蝶番返し,鼈臑型四面体の三角柱への組み換えなどは分解合同の例ですが,それは例外的なケースなのであって,多面体においては体積が等しくても分解合同でないものが存在するのです.

[補]デーンは1901年に分解合同となるための必要条件だけを示した.それはヒルベルトの第3問題に対する答えになっていた.シドラーはデーンの条件が十分条件でもあることを示した.デーン・シドラーの定理は2つの多面体が分解合同になるための必要十分条件を与えるものである.ハドヴィゲールはこの問題を平行移動に置き換えて得られる問題についても研究した.

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[Q]鼈臑型四面体を三角柱に等積変形せよ

[A]相似比1:3,体積比1:27となる27個の鼈臑を組み換えると三角柱を作ることができる.

 ここで,大鼈臑を下から1/3のところで水平に切ると上側は8個の小鼈臑からなる中鼈臑,下側は19個の小鼈臑からなる三角錐台,さらに8個の小鼈臑からなる中鼈臑を4個=塹堵+鼈臑,3個=陽馬+鼈臑,1個=鼈臑に分けることができる.

 このことから,鼈臑型の四面体は4つのピースを組み換えると三角柱になることがわかる.すなわち,鼈臑を下から1/3のところで水平に切る,次に新しくできた四面体を垂直に切る,さらに一方を斜めに切って,4つのピースを組み換えると同じ底面ともとの1/3の高さをもつ角柱に変形させることができる.

 この分解合同はヒルによって与えられたと成書にはあるが,ヒルの論文をあたってみてもそのような記述は見あたらなかった.実際はヒルから約50年後,スイスの数学者シドラーによって4ピースのエレガントな切断と組み替えが与えられたようだ(p234).

 なお,分割合同であるための必要条件と空間充填形ができるための必要条件は,ほぼ同じと考えられるのですが,空間充填形ができるための必要条件は,二面角δが4直角の整数分の1であることです.菱形十二面体,直方体,鼈臑型四面体などが分解合同であるのは二面角δが4直角の整数分の1であるためです.

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【5】立体蝶番返し定理

 ハドヴィガー・グリュールの定理の立体版「立体蝶番返し」も考えることができます.すなわち,立体Aの表面が立体Bの内部に移り,立体Bの表面が立体Aの内部の点だけから構成されているというものです.これはデュドニー分割よりも難しいリバーシブル問題ですが,このような例として秋山仁先生の「キツネヘビ」があげられます.

 秋山先生はこのようなリバーシブルな等積変形多面体をすべて決定する試みをされておられるのですが,ある種の多面体のクラスに対して何がわかっていて何がわからないのか,ある程度の結論を述べてみたいと思います.

 平行多面体のデーン不変量は0で,アフィン変換しても変わらない.また,5種類あるフェドロフの平行多面体は相互に分解合同である.しかし,それよりも強い意味での主張が

[1]5種類あるフェドロフの平行多面体相互の「立体蝶番返し」は10通り考えられるが,アフィン変換した平行多面体への「立体蝶番返し」は常に可能である(=リバーシブル分解合同).

 平行多面体のリバーシブル分解合同性は,平行多面体が空間充填可能で,中心対称かつすべてのファセットは中心対称であるという性質に負っている.それではその逆はどうだろうか?

[2]平行多面体は空間充填多面体のある種のクラスであるが,空間充填多面体は常にリバーシブル分解合同だろうか?

[3]中心対称かつすべてのファセットが中心対称である多面体は,リバーシブル分解合同か?  (そうではない)

[4]そのn次元版「n次元平行多胞体は常にリバーシブル分解合同である」ことはいえるだろうか?

 なお,平行多面体の元素定理はいわば分解相似の問題であって,分解合同問題とは似て非なるものである.

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