球体による多面体近似の難しさについてはいろいろ解説されていて,たとえば,次元が上がると単位立方体に内接する球体の体積が無視できるほどになる「高次元のパラドックス」があげられる.
幸い,ここで考えているn次元切頂八面体の面数は2^n+2nと指数関数的なので,球体と較べてもいい線をいっているのではないかと思われる.また,面数2(2^n−1)の空間充填多面体(置換多面体,頂点数(n+1)!)を使えばよりよい上界・下界評価が可能になるかもしれないが,計算はかなり面倒になるだろう.
そこで,今回のコラムでは面数2n(頂点数2^n)の超立方体と面数2^n(頂点数2n)の正軸体を球体で近似することを試みたい.
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【1】超立方体の球体近似
球の体積
π^(n/2)/Γ(n/2+1)・r^n
とn次元立方体[−1,1]^nの体積
2^n
を等しいとおいて半径を求めるが,ここでは偶数次元の場合(n=2k)だけを扱うことにする.
2^n=2^2k
π^(n/2)/Γ(n/2+1)・r^n=π^k/k!・r^2k
したがって,
r^2k≒k!・(4/π)^k
r^2≒(k!)^1/k・(4/π)=((n/2)!)^2/n・(4/π)
となるような球がbest fitすることになる.
そこで,best fitする球(r^2=1/(n−j))を考えると,n→∞のとき,j/nあるいは(n−j)/n=1−j/nの収束を調べるという問題になる.
((n/2)!)^-2/nπ/4=n−j
((n/2)!)^-2(π/4)^n=(n−j)^n
(π/4)^n=(n−j)^n{(n/2)!}^2
スターリングの公式を使って
(n/2)!→√(πn)(n/2)^n/2exp(−n/2)
とするのは正しくない.相対誤差は0に近づくが絶対誤差は無限大に発散するからである.そこで,
(π/4)^n=(n−j)^n{(n/2)!}^2
の両辺を
{√(πn)(n/2)^n/2exp(−n/2)}^2=πn(n/2)^nexp(−n)
で割ってから,極限をとってみよう.
すると
左辺=(πe/2n)^n/πn
右辺=(n−j)^n
となるから,さらに両辺をn^nで割ってから極限をとると
左辺=(πe/2n^2)^n/πn
右辺=exp(−j)
−j→nlog(πe/2n^2)−log(πn)→nlog(πe/2n^2)
r^2=1/(n−j)→1/(1+log(πe/2n^2))n→1/(log(πe^2/2n^2))n
となり収束しない.これも「高次元のパラドックス」の現れだろう.
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【2】正軸体の球体近似
正軸体は4次元を除き空間充填多面体にならないが,球の体積
π^(n/2)/Γ(n/2+1)・r^n
とn次元正軸体の体積
2^n/n!
を等しいとおいて半径を求めてみる.
偶数次元の場合(n=2k)だけを扱うことにするが,
2^n/n!=2^2k/(2k)!
π^(n/2)/Γ(n/2+1)・r^n=π^k/k!・r^2k
したがって,
r^2k≒(k!/(2k)!)・(4/π)^k
r^2≒(k!/(2k)!)^1/k・(4/π)=((n/2)!/n!)^2/n・(4/π)
となるような球がbest fitすることになる.
そこで,best fitする球(r^2=1/(n−j))を考えると,n→∞のとき,j/nあるいは(n−j)/n=1−j/nの収束を調べるという問題になる.
((n/2)!/n!)^-2/nπ/4=n−j
((n/2)!/n!)^-2(π/4)^n=(n−j)^n
(π/4)^n=(n−j)^n{(n/2)!/n!}^2
ここで,
(π/4)^n=(n−j)^n{(n/2)!/n!}^2
の両辺を
{√(πn)(n/2)^n/2exp(−n/2)}^2=πn(n/2)^nexp(−n)
で割って
{√(2πn)(n)^nexp(−n2)}^2=2πn(n)^2nexp(−2n)
を掛けてから,すなわち,
2(2en)^n
を掛けてから,極限をとってみよう.
すると
左辺=2(πen/2)^n
右辺=(n−j)^n
となるから,さらに両辺をn^nで割ってから極限をとると
左辺=2(πe/2)^n
右辺=exp(−j)
−j→nlog(πe/2)+log2→nlog(πe/2)
r^2=1/(n−j)→1/(1+log(πe/2))n→1/(log(πe^2/2))n
となり,収束する.
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【3】まとめ
n次元切頂正軸体の最良近似球の半径は
r^2=1/(log(πe^2/8))n
であるのに対して,n次元正軸体では
r^2=1/(log(πe^2/2))n
である.しかし,この球は何も幾何学的な意味をもっていない.
また,超立方体と正軸体の比較から,n→∞のときの最良近似球が存在するためには頂点数よりも面数が効いてくるものと思われた.
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