x^2+y^2=(x+yi)(x−yi)
x^2+2y^2=(x+y√−2)(x−y√−2)
x^2−2y^2=(x+y√2)(x−y√2)
x^2+3y^2=(x+y√−3)(x−y√−3)
ですから,それぞれ2次体
Q(i),Q(√−2),Q(√2),Q(√−3)
と関係していることは容易に想像されます.
Q(√d)の整数環をいかに定義すべきかが確定すると,次に,いかなるdに対してA(ω)は一意分解環になるのかが問題となります.
===================================
【1】類数と素因数分解の一意性
正の整数では素因数分解の一意性が成り立ちます.また,Q(√−1)=Q(i)の世界では,
χ(5)=(−1/5)=1 (第1補充法則)
より,素数5は2つの相異なる素イデアルの積となり
5=(2+i)(2−i)
とただ1通りのイデアル分解されます.
ところが,扱う数の範囲を広げると,既約因子の積に2通りに表されるような状況を生じます.たとえば,扱う数の範囲を整数から,
Z(√−5)={a+b√−5|a,bは整数}
にまで拡げると,
6=2・3=(1+√−5)(1−√−5)
2,3は素数ですし,
1+√−5,1−√−5
はいずれも
a+b√−5
のなかには±1と±それ自身以外の約数をもたないので「素数」です.
このように,もうこれ以上分解できないはずの素因数分解の仕方が2通り存在してしまう現象が起こります.Q(√d)の整数環A(ω)が必ずしも一意分解環でないことに最初に気づいたのは,ディリクレでした.
この状況に対して,これはまだ分解が足りないためだと考えることもできます.すなわち,2,3,1±√−5は素数でなく偽物の素数である,さらに究極の数α,β,γ,δがあって,
2=αβ,3=γδ,1+√−5=αγ,1−√−5=βδ
となっていて,
6=αβγδ
が6の素因数分解となるという考え方をクンマーの理想数の理論といいます.
もちろん,α,β,γ,δはZ(√−5)の中には存在しません.素因数分解したときの素因数がすべて含まれている集合を考えるのです.
{√2,(1+√−5)/√2,(1−√−5)/√2}
これらが理想素元であって,
6=2・3=√2・√2・(1+√−5)/√2・(1−√−5)/√2=αβγδ
6=(1+√−5)(1−√−5)=√2・(1+√−5)/√2・√2・(1−√−5)/√2=αδβγ
が成り立ち,いまや6の素因数分解は一意的です.
{√2,(1+√−5)/√2,(1−√−5)/√2}
を選んだのは一見場当たり的に思えますが,のちにイデアルが導入されるとこの選択はごく自然なものだったことがわかります.イデアルの世界に至れば,ただ1通りの素因数分解が成立するようになるのです.
以上は2次形式論に移すと,どのようなdに対して判別式D=dあるいはd/4の形式の同値類がただ1つになっているかということです.ガウスは証明なしにではありますが,負のdに対してA(ω)が単項イデアル環になっているものをすべて決定しています.この事実に最終的な証明が与えられたのが,1966年のベイカー・スタークの定理
『類数が1となる虚2次体Q(√d)は
−d=1,2,3,7,11,19,43,67,163
しかない』
というわけです.
===================================
【2】類体論
2次体における素数の分解
Q(i),Q(√−2),Q(√2),Q(√−3),Q(√3)
はいずれも類数が1であって,これらの体の整数環は一意分解整域となります.したがって,素数は素イデアルの積としてただ1通りに表されます.
それに対して,Q(√−5)やQ(√−6)は類数が2であり,Z(√−5)やZ(√−6)は一意分解とは限らないことを意味しています.
6=2・3=(1+√−5)(1−√−5)
類数1では,p=x^2+y^2,p=x^2+2y^2,・・・の形に書ける素数の場合,Q(√−1)やQ(√−2)においてpが完全分解するための必要十分条件
Q(√−1) ←→ 1(mod4)
Q(√−2) ←→ 1,3(mod8)
がそのままだったのに対して,類数2では,p=x^2+5y^2,p=x^2+6y^2,・・・の形に書ける素数に次のような現象が起こります.
p≠2,5でない素数とするとき
「pが20で割ると1または9余る素数ならば,p=x^2+5y^2」
p≠2,3でない素数とするとき
「pが24で割ると1または7余る素数ならば,p=x^2+6y^2」
すなわち,Q(√−5)において,pが完全分解するための必要十分条件
1,3,7,9(mod20)
Q(√−6)において,pが完全分解するための必要十分条件
1,5,7,11(mod20)
に較べて少しずれが生じてしまうのです.
ついでながら,h=2なる虚2次体Q(√d)は,
−d=5,6,10,13,15,22,35,37,51,58,91,115,123,187,235,267,403,427
の18個あります.
===================================
【3】ミンコフスキーの数の幾何学
ミンコフスキーはアインシュタインの先生として有名で,相対論における基本概念はミンコフスキーにその起源をたどることができます.彼は数論家として出発しましたが,研究を進めるにしたがって次第に幾何学に興味を惹かれるようになり,幾何学的方法を用いて数論を研究する「数の幾何学」と呼ばれる新しい数学分野を打ち立てました.
格子点定理が数の幾何学の基礎となっているのですが,格子点定理は次のように述べることができます.
「平面(n次元空間)上の任意の単位格子において,1つの格子点を中心として1辺の長さが2の正方形(面積4の平行四辺形,面積2^nの中心対称な凸体)を任意の向きにおいてみると,内部あるいは境界上にもうひとつの格子点が必ず存在する.」
この定理は非常に単純であるにもかかわらず,他の方法では解決することのできなかった数論における多くの問題を解明したのですが,格子点定理を用いると,初等的な定理,たとえば,
「4k+1の形の素数はx^2^+y^2の形に書ける」
「6k+1の形の素数はx^2^+3y^2の形に書ける」
「8k+1の形の素数はx^2^+2y^2の形に書ける」
なども証明することができます.2次形式の理論が発展していく段階では,ミンコフスキーが非常に大きな貢献をしていて,格子点の幾何学はミンコフスキーの「数の幾何学」に端を発するのです.
===================================