スターリングの公式の図形的証明では,直角三角錐RT,RP,・・・(体積n!)を立方体(体積n^n)で,あるいはn次元切頂八面体をn次元超球で近似させることによって,
n!/n^n〜cf(n)
を得てきた.
ところで,整数点を数えれば面積がだいたいわかるというのが離散体積で,たとえば,ピックの公式(1899年)とは,任意の格子多角形の面積が以下の式で表されるというものである.
A=I+B/2−1
A:格子多角形の面積
I:内部の点の個数
B:境界線上の点の個数
ピックの定理を一般化して,3次元格子上に頂点をもつ多面体の体積公式を作ることができるだろうか? 実は,3次元の任意の格子多面体に対しては内部や境界面上の点の個数から体積を求める式はないことが証明されている(リーブ,1957).
凸格子点多面体に限ると,すべての凸格子点多面体に対して成り立つ公式は存在するのだが,それでも非常に複雑なものになるという.→コラム「ピックの公式の拡張」参照.今回のコラムでは直角三角錐の離散体積を求めることにしたい.
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【1】直角三角錐の離散体積とその母関数
単位直角三角錐をΔで表す.それをt倍伸長させた立体がtΔである.tΔの離散体積は
L(t)=#(tΔ∩Z^n)=(1/(1−z)^n+1z^t)の定数項
ここで,1/(1−z)^d+1=Σ(n+k,n)z^kであるから,
L(t)=(n+t,n)
とnとtに関して対称な形に書くことができる.
第1種スターリング数は有限母関数
x(x−1)・・・(x−n+1)=Σ(m=0,n)S(n,m)x^m
を通して定義されるが,第1種スターリング数を用いて
L(t)=1/n!Σ(-1)^n-kS(n+1,k+1)t^k=(n+t,n)
と書くこともできる.
また,L(t)の母関数は
1+ΣL(t)z^t=1/(1−z)^n+1
である.
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【2】正軸体の離散体積とその母関数
正軸体の離散体積は
L(t)=Σ(k=0,d)(n+k,n)(t−k+n,n)
=Σ(k=0,min(n,t))2^k(n,k)(t,k)
とnとtに関して対称な形に書くことができる.
その母関数は
1+ΣL(t)z^t=(1+z)^n/(1−z)^n+1
である.
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【3】離散体積から連続体積へ
母関数
(hnz^n+hn-1z^n-1+・・・+h1z+1)/(1−z)^n+1
に対して,連続体積
volP=(hn+hn-1+・・・+h1+1)/n!
が成り立つ.
したがって,直角三角錐では1/n!,正軸体では2^n/n!となるが,これでは近似の目的から外れてしまう.
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【補】リーブの四面体
体積=内部の格子点数+面上の格子点数/2−辺上の格子点数/4−1
が任意の格子多面体に対して成り立つならば話は簡単なのだが,そうは問屋が卸さない.3次元の任意の格子多面体に対しては内部や境界面上の点の個数から体積を求める式はないという例をあげよう.
体積=内部の格子点数+面上の格子点数/2−辺上の格子点数/4−1
が成立しない反例をあげると,4点(0,0,0),(1,0,0),(0,1,0),(1,1,z)を頂点とする三角錐(体積z/6)では,
内部の格子点数=0
面上の格子点数=4
辺上の格子点数=4
より
内部の格子点数+面上の格子点数/2−辺上の格子点数/4−1=0
この四面体では,
内部の格子点数=0
面上の格子点数=4
辺上の格子点数=4
を変化させることなしに,zとともに体積をいくらでも大きくすることができる.
リーブの四面体はリーブがR^3において,ピックの定理が成り立たないことを示すために用いた物であるが,リーブの四面体の離散体積は
L(t)=(z/6)t^3+t^2+(2−z/6)t+1
で与えられる.
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