数列{an}と{bn}がともに無限大に発散し,差{an−bn}は無限大に発散するが,比{an/bn}は1に近づくという例に,階乗n!とその近似値として使われる公式として有名なスターリングの公式:
n!〜√(2πn)n^nexp(−n)
があります.
”〜”記号は漸近的に等しい,すなわちnが十分大きいとき両者の比が1に近づくという意味であって,両者の差がなくなるという意味ではありません.いいかえれば,この近似式の絶対誤差はnの増大とともに増大するが,相対誤差は減少する,つまり,左辺と右辺の比はnを∞にすると極限が存在して0でも無限大でもなく,1に収束するということです.スターリングの公式では,n=8のとき相対誤差は約1%ですが,nが大きくなるほど相対誤差は小さくなります.
===================================
【1】n次元正軸体の切頂
n次元正軸体を切頂して,すべての辺が同じ長さの「n次元切頂八面体」を作ることを考える.正軸体を切頂する場合,すべての辺が同じ長さになるのはどんなときだろうか? 計算方法はコラム「n次元の立方体と直角三角錐(その57)」に譲って結論を先にいうと,超平面x=2/nで切頂すればよい.
n次元正軸体の頂点の座標は
(1,0,・・・,0)
(0,1,・・・,0)
・・・・・・・・・・・
(0,0,・・・,1)
で与えられるから,基本単体の座標はk次元面の重心をとることによって,
p0(1,0,・・・,0)
p1(1/2,1/2,0,・・・,0)
p2(1/3,1/3,1/3,0,・・・,0)
・・・・・・・・・・・・・・・・
pn-1(1/n,1/n,1/n,・・・,1/n)
pn(0,0,・・・,0)
この超平面はnが偶数のとき,頂点Pn/2-1を通る.正軸体の基本単体の切断のほうが超立方体の基本単体の切断よりも簡単に扱えることがわかった.
===================================
【2】図形的証明
もとのn次元正軸体の1象限の体積は1/n!.また,切頂後2個で1辺の長さ(2/n)の立方体ができるから,不等式
2/n!≧(2/n)^n
が成り立つことがわかる.
この不等式は,スターリングの不等式から明らかかもしれないが,図形的に示すことができることは面白いだろう.
もし,この不等式を直接的に証明するならば
n!≦2(n/2)^n
n!/n^n≦1/2^n-1
1/n・2/n・・・(n−1)/n・n/n≦1/2^n-1
であることを証明すればよい.
左辺に対して,相加平均・相乗平均不等式を適用すると
左辺≦(Σk/n^2)^n=((n+1)/2n)^n=1/2^n(1+1/n)^n
ここで,
(1+1/n)^n
は増加数列で
2≦(1+1/n)^n≦e
あることがいえるので,n!≦2(n/2)^nが証明されたことになる.
===================================
【3】雑感
スターリングの公式
n! 〜 √(2πn)(n/e)^n
は面白い公式で,たとえば,
n!/n^n 〜 √(2πn)/e^n
1/n・2/n・・・(n−1)/n・n/n 〜 √(2πn)/e^n
として,全体のn乗根をとればk/nの相乗平均が大まかに1/eに近いことがわかるだろう.あるいは
1/n・2/n・・・(n−1)/n・n/n≦1/2^n-1
より,k/nの相乗平均が大まかに1/2に近いといったほうがいいかもしれない.
===================================