結晶群は(群論を使わずにたとえていうならば)n次元空間を丸ごと因数分解する公式のようなものといえるだろう.そのなかでも平行多面体は基本的な因数分解の公式になっている.
平行多面体元素定理は空間充填図形の元素と考えられる.数でいえば素数のようなもの.空間充填図形の元素が何個あるのか(素因数分解の一意性?)についてただいま研究中であるが,その意味でもペンタドロンは画期的・奇跡的な多面体なのである.
ところで,このたび
石井源久「多次元半正多胞体のソリッドモデリングに対する研究」
を謹呈していただいた.このような立派な研究が行われていたことをまったく存じ上げずに失礼申し上げた.
昨夜この大著を読んでいたのだが,5次元以上では正4面体群と正8面体群の2つの系列の半正多胞体があるが,系列間に重複はないと思われるという(その43)と同じ結論についての考察が記されていたことを申し添えておきたい.
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平行多面体は結晶構造と深く関係していて,立方体,6角柱,菱形12面体,長菱形12面体,切頂8面体はそれぞれ単純立方格子,六方格子,面心立方格子,底心格子(直方体の8個の頂点と上面・下面の面の中心に原子が配置されている構造),体心立方格子に対応するものであろう.
2次元格子は5種類だが,3次元格子には1848年にブラーベが発見した14種類ある.そして,これから決まる本質的なディリクレ領域は,ロシアの結晶学者フェドロフの見つけた5種類の平行多面体しかない.
2次元格子で異なる対称性をもつものは17種類存在する.この17種類の対称性は,2次元結晶群としてとらえることができる.この問題は,ロシアのフェドロフとドイツのシェーンフリースによって,まったく別々に解かれた.
空間での等長変換は,平行移動,回転,並進回転,鏡映,すべり鏡映,回転鏡映,恒等変換の7種類であるから,3次元結晶群は219種類存在し,その多くが結晶構造として自然界にも存在している.(結晶をテーマとする物理の本には,たいてい3次元結晶群の数は230種類存在すると書かれてあるが,変換が向きを保たないものは異なるものと数えているからである.)
4次元のブラーベ格子は64種類(74種類:10組は対掌体の関係にある)あり,4次元のフェドロフ結晶群は4783種類(空間の向きを考え合わせると4895種類)存在する.
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[補]x^2−5x+6は因数分解できるが,x^2+1は複素数を使わない限り因数分解できない.したがって,因数分解を見つけるには典型例を記憶しておくという原始的な方法が最も近道のようである.代表的なところでは
a^2−b^2=(a+b)(a−b)
a^2+2ab+b^2=(a+b)^2,a^2−2ab+b^2=(a−b)^2
x^2+(a+b)x+ab=(x+a)(x+b)
a^2+b^2+c^2+2(ab+bc+ca)=(a+b+c)^2
a^3+b^3=(a+b)(a^2−ab+b^2),a^3−b^3=(a−b)(a^2+ab+b^2)
a^3+b^3+c^3−3abc=(a+b+c)(a^2+b^2+c^2−ab−bc−ca)=1/2(a+b+c){(a−b)^2+(b−c)^2+(c−a)^2}
また,高校数学のカリキュラムからは消えているのだが,
a^4+a^2b^2+b^4=a^4+2a^2b^2+b^4−a^2b^2
=(a^2+b^2)^2−a^2b^2=(a^2+ab+b^2)(a^2−ab+b^2)
この因数分解のミソは適当に余分な項を加減していることである.
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a^2+b^2−2ab=(a−b)^2
a^3+b^3+c^3−3abc=(a+b+c){(a−b)^2+(b−c)^2+(c−a)^2}/2
a^4+b^4+c^4+d^4−4abcd
はどうなるのだろうか? ヒルベルトの定理は多項式の平方の和となることを保証してくれる.
a^4+b^4+c^4+d^4−4abcd
=(a^2−b^2)^2+(c^2−d^2)^2+2(ab−cd)^2
は3個の多項式の平方の和である.ともあれ,フルヴィッツ・ムーアヘッドの等式により,算術平均と幾何平均の不等式
a^4+b^4+c^4+d^4≧4abcd
が証明されるのである.
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