■ラマヌジャンの和(その7)

  [参]クリフォード.A.ピックオーバー「数学のおもちゃ箱 上」日経BP社 P.284

に「ラマヌジャンの式」として

  x/(2x-1)=1-(x-1)/(x+1)+((x-1)*(x-2))/((x+1)*(x+2))-((x-1)*(x-2)*(x-3))/((x+1)*(x+2)*(x+3))-…

が取り上げられています.単純なようでいてなかなか興味深い式だと考えられます.

 おそらく古典的な公式があるのだと思うのですが,たとえば,1/(2x)=zとおいてみても

  x/(2x-1)=1/2・1/(1-1/2x)=1/2・1/(1-z)=1/2・(1+z+z^2+z^3+・・・)

となって埒があきません.証明しようと試行錯誤を重ねたのですが,行き詰まってしまいました.

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【1】Mathematicaによる証明

 ところが,Mathematicaはちゃんと計算してくれて,

  右辺=Γ(1+x)Γ(−1+2x)/Γ(x)Γ(2x)

  右辺=x/(−1+2x)は明らかである.これから推察すると,まず何とかΓ関数に帰着させることが重要なようだ.

 Mathematicaがどのような処理をしてΓ関数に帰着しているのかを,阪本ひろむ氏がTrace機能を使って内部の動きを観察してみてくれた.

  Pochhammer関数=Gamma[a+n]/Gamma[a]

を使って自然と答えを導いているようにみえるとのことであった.

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【2】TN氏による証明

 その後,TN氏が「入れ子状に無限に続く」という言葉をヒントに,以下のような証明を思いついたので紹介します.

x/(2x-1)=1-(x-1)/(2x-1)

=1-((x-1)/(x+1))*(x+1)/(2x-1)

=1-((x-1)/(x+1))*(1-(x-2)/(2x-1))

=1-((x-1)/(x+1))*(1-((x-2)/(x+2))*(x+2)/(2x-1))

=…

=1-((x-1)/(x+1))*(1-((x-2)/(x+2))*(1-((x-3)/(x+3))*(1-((x-4)/(x+4))*(1-…))))

=1-(x-1)/(x+1)+((x-1)*(x-2))/((x+1)*(x+2))-((x-1)*(x-2)*(x-3))/((x+1)*(x+2)*(x+3))+((x-1)*(x-2)*(x-3)*(x-4))/((x+1)*(x+2)*(x+3)*(x+4))-…

 なお,TN氏からはトラクトリックスの回転体である擬球の体積は4/3πa^3ではなく,2/3πa^3であるというご指摘もいただきました.

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【補】ガンマ関数とベータ関数

  Γ(x)=∫(0,∞)t^(x-1)exp(-t)dt x>0

無限積分Γ(x)をxの関数とみてガンマ関数といいます.

  Γ(1)=∫(0,∞)exp(-t)dt=1

  Γ(1/2)=∫(0,∞)t^(-1/2)exp(-t)dt

ここで,t=u^2とおくと∫(0,∞)exp(-u^2/2)du=√π/2(ガウス積分)より

  Γ(1/2)=√π

が得られます.

 オイラーの第2積分とも呼ばれるガンマ関数Γ(x)には,Γ(x+1)=xΓ(x)の関係があり,次のような漸化式が成り立ちます.

  Γ(x+1)=xΓ(x)=x(x-1)Γ(x-1)=・・・・

したがって,xが正の整数nのときにはΓ(n+1)=n!が成り立ち,ガンマ関数は階乗の一般形となっていることがわかります.

 また,半整数のときには,Γ(n+1/2)=(2n)!√π/{2^(2n)n!}です.なお,ガンマ関数Γ(x)はx>0について微分可能で,x=1.4616321449・・・で最小となります.

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 ガンマ関数(オイラーの第2種積分)は,

  Γ(x)=∫(0,∞)t^(x-1)exp(-t)dt

ベータ関数(オイラーの第1種積分)は,

  B(a,b)=∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(b-1)dt

によって定義されます.ベータ関数とガンマ関数との間には,

  B(a,b)=Γ(a)Γ(b)/Γ(a+b)

の関係がありますから,ベータ関数はガンマ関数の兄弟分にあたります.

  Γ(1)=1,Γ(1/2)=√π

であることを知っていればたいてい間に合いますが,Γ(1/2)=√πを得るにはベータ関数が用いられます.この関数において,t=sin^2θとおくと

  dt=2sinθcosθdθ

ですから

  B(a,b)=∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(b-1)dt=2∫(0,π/2)sin^(2a-1)θcos^(2b-1)θdθ

ここで,a=1/2,b=1/2とすると

  B(1/2,1/2)=2∫(0,π/2)dθ=π

  Γ^2(1/2)/Γ(1)=π

Γ(1)=1ですから,Γ(1/2)=√πとなります.

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【補】ガンマ関数の積についての有名な公式

  Γ(x)Γ(1-x)=π/sinπx・・・相反公式(相補公式)

  Γ(1/2+x)Γ(1/2-x)=π/cosπx

  Γ(x)Γ(x+1/2)=√πΓ(2x)/2^(2x-1)・・・乗法公式(倍数公式)

 相反公式(相補公式)

  Γ(x)Γ(1-x)=π/sinπx

を用いると,ゼータ関数は

  ζ(s)=2Γ(1-s)sin(πs/2)(2π)^(s-1)ζ(1-s)

となりますが,さらに乗法公式(倍数公式)

  Γ(x)Γ(x+1/2)=√πΓ(2x)/2^(2x-1)

を用いれば

  sin(πs/2)=π/Γ(s/2)Γ(1-s/2)=√πΓ((1-s)/2)/2^sΓ(1-s)Γ(s/2)

より

  π^(-s/2)Γ(s/2)ζ(s)=π^((1-s)/2)Γ((1-s)/2)ζ(1-s)

と整理されます.

 これは

  ζ(s)=π^(s-1/2)Γ((1-s)/2)/Γ(s/2)ζ(1-s)

の形にも書けるのですが,前者の方がより対称性の高い形でしょう.

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 また,ベータ関数において,a=m/n,b=1/2とおき,t=x^nと置換すると,

  ∫(0,1)x^(m-1)/(1-x^n)^(1/2)dx=Γ(m/n)√π/nΓ(m/n+1/2)

したがって,

 (m,n)=(1,1)のとき,∫(0,1)1/(1-x^1)^(1/2)dx=2

 (m,n)=(1,2)のとき,∫(0,1)1/(1-x^2)^(1/2)dx=π/2

 (m,n)=(1,3)のとき,∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx=Γ^3(1/3)/2^(4/3)3^(1/2)π

 (m,n)=(1,4)のとき,∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ^2(1/4)/2^(5/2)π^(1/2)

が得られます.

 レムニスケート周率ωが,

  ω=Γ^2(1/4)/2^(3/2)π^(1/2)

と書けるいうわけです.

  ∫(0,1)1/(1-x^1)^(1/2)dx=2

  ∫(0,1)1/(1-x^2)^(1/2)dx=π/2

は初等的にも得ることができます.一方,

  ∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx=Γ^3(1/3)/2^(4/3)3^(1/2)π

  ∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ^2(1/4)/2^(5/2)π^(1/2)

は,特別な数と楕円積分を関係づけるものになっています.

 これらを,Γ^q(1/q)の形で統一的に表示すれば,

  Γ^2(1/2)=π=2∫(0,1)1/(1-x^2)^(1/2)dx

  Γ^3(1/3)=2^(4/3)3^(1/2)π∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx

  Γ^4(1/4)=2^5π(∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx)^2

 なお,

  ∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx=Γ^3(1/3)/2^(4/3)3^(1/2)π

を得るには,ガンマ関数の乗法公式(倍数公式)

  Γ(x/2)Γ((x+1)/2)=π^(1/2)Γ(x)/2^(x-1)

と相反公式(相補公式)

  Γ(x)Γ(1-x)=π/sinπx

また,

  ∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ^2(1/4)/2^(5/2)π^(1/2)

を得るには乗法公式を用いています.

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