デュドニーのカンタベリー・パズルでは,正三角形と正方形の面積は等しいことはもちろんであるが,正三角形の周は正方形の内部に移り,正方形の周は正三角形の内部の点だけから構成されているリバーシブルな性質をもっている.デュドニーはわずか4ピースにして1回のハトメ返しで正三角形から正方形に移すのに成功したのである.カンタベリー・パズルの切断法がいかにエレガントなものかわかるであろう.
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【1】分解合同からリバーシブル分解合同へ
まず,正三角形も正方形も単独で平面を充填できる図形であることが重要な要素になる.結局,形の異なる三角形や四角形のあいだであっても,それらの面積が同じならば何回かのハトメ返しで一方から他方へ移すことができるのである(ボヤイ・ゲルヴィンの定理→ハドヴィゲール・グリュールの定理).
ところで,デュドニー分割では,正三角形の周は正方形の内部に移り,正方形の周は正三角形の内部の点だけから構成されている.この立体版の分割も考えることができる.すなわち,立体Aの表面が立体Bの内部に移り,立体Bの表面が立体Aの内部の点だけから構成されているというものである.
これは「分解合同」よりも格段難しいリバーシブル問題であるが,このような例として秋山仁先生の「キツネヘビ」「ブタハム」があげられる.
菱形十二面体や切頂八面体はよく知られた空間充填立体であるが,実際,菱形十二面体と直方体の間の立体蝶番返し,切頂八面体と直方体の間の立体蝶番返しなど空間充填形同士の蝶番返しが作られていて,秋山先生はこのようなリバーシブルな等積変形多面体をすべて決定する試みをされているというわけである.
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【2】リバーシブル分解合同の不可能性?
2次元・3次元の分割パズルのコレクションである
[参]Frederickson GN: Dissections: Plane and Fancy, Cambridge University Press, 1997
にリバーシブルタイプの図は掲載されていない.不可能なのだろうか?
たとえば,(その17)では正三角から正方形へというデュドニーのカンタベリー・パズルの秀逸さを示す結果になったが,あらためてデュドニーに敬意を表したい.
また,(その21)では重ならない部分だけを入れ替える変形を考えたのであるが,
[参]Frederickson GN: Dissections: Plane and Fancy, Cambridge University Press, 1997
にはそのような変形パターンがひとつもないのである.
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