カタラン数の一般項は
Cn=2nCn/(n+1)=(2n)!/n!(n+1)!,
Cn=2n+1Cn/(2n+1)
あるいは
Cn=2nCn−2nCn-1=1,2,5,14,42,・・・
と表される.
Cn=2nCn/(n+1)=(2n)!/(n!)^2(n+1)
に対して,スターリングの漸近公式
k!=√2π・k^(k+1/2)・exp(−k)=√(2πk)・(k/e)^k
を適用すると,
Cn〜2^2n/√(nπ)(n+1)〜4^nn^(-3/2)/√π
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【1】1次元ランダムウォーク
ここでは,対称単純ランダムウォークの場合の再帰性,すなわち,いつかは原点に戻る確率(再帰確率)について考察することにします.
原点に戻るのはtが偶数の時に限られるので,2nステップのとき,左右に同じ回数nずつ移動する確率は
u2n=2nCnp^nq^n
で与えられます.特に,対称(p=q=1/2)のときは,
u2n=2nCn/2^(2n)
また,粒子が時刻2nではじめて原点に復帰する確率は
f2n=u2(n-1)/2n
で与えられます.この確率はカタラン数
Cn=2nCn/(n+1)=1,2,5,14,42,・・・
を用いて,
f2n=C(n-1)/2^(2(n-1))
と表されます.(カタラン数のはじめの4項1,2,5,14は初項1から始まって前項を3倍して1を引いたものに一致しますが,5項目以降は異なっています.)
再帰性を判定するのには,たとえば,粒子が出発した点にいる確率がt=∞においても有限の値を示すときは再帰的,また,これは出発した点にいる確率をt=0からt=∞まで積算した量が無限大に発散するときは再帰的と定義できます.前者は強い意味の,後者は弱い意味の粒子の局在を表しています.すなわち,単純ランダムウォークが再帰的であるための必要十分条件は,
Σu2n=∞
が成立することと考えられ,Σu2n<∞のときは再帰しないとします.
ここで,ウォリスの公式によって,
u2n=2nCn/2^(2n) 〜 (πn)^(-1/2)
が示されます.また,ゼータ関数
ζ(k)=Σ1/n^k
はk≦1のとき発散し,k>1のとき収束しますから,1次元の対称単純ランダムウォークは再帰的であることがわかります.スターリングの公式を使っても同じ結果が得られます.
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【2】多次元ランダムウォーク(格子上の確率論)
引き続いて,1次元格子の代わりに多次元直交格子上の対称単純ランダムウォークを考えてみましょう.時刻0で平面上の原点から出発し,単位時刻ごとに正方格子の上下左右の4つの隣接点に等確率1/4で移動していくのが2次元対称単純ランダムウォーク,立方格子の6つの隣接点に等確率1/6で移動していく粒子の運動が3次元対称単純ランダムウォークです.
2次元対称単純ランダムウォークで,粒子が時刻2nに原点にいると確率は,4項分布において,それまで上下にそれぞれk回,左右にそれぞれn−k回移動した確率ですから,i+j=nとして
u2n=1/4^(2n)Σ(2n)!/(i!)^2(j!)^2
=1/4^(2n)(2nCn)^2
〜 (πn)^(-1)
同様に,3次元対称単純ランダムウォークでは,6項分布において,i+j+k=nとして
u2n=1/6^(2n)Σ(2n)!/(i!)^2(j!)^2(k!)^2
=2nCn/2^(2n)Σ(n!/3^ni!j!k!)^2
〜 C/n^(3/2)
すなわち,2次元の対称単純ランダムウォークは再帰的であるのに対し,3次元対称単純ランダムウォークは非再帰的であるという結果が得られます.
一般に,d次元対称単純ランダムウォークでは,最近接の2d個の点に等確率1/2dで移動し,n→∞のとき
Σu2n 〜 2^(1-d)d^(d/2)(πn)^(-d/2)
したがって,d次元対称単純ランダムウォークは,確率1で出発点に戻れるだろうか? という問いに対しては,n→∞のとき
u2n 〜 2^(1-d)d^(d/2)(πn)^(-d/2)
ですから,
a)d≧3のときは非再帰的であって無限の彼方へいってしまう
b)d=1,2のときは再帰的である(すべての道はローマに通ず)
ということを意味しています.しかし,再帰的とはいっても,いつかは原点に帰るということであって,その戻るまでの時間の期待値は∞です.これを零再帰的と呼び,戻れるとはいっても戻りづらいことがわかります.
すなわち,1次元・2次元の対称単純ランダムウォークは再帰的(必ず原点に戻ってくる)であるのに対し,3次元になると少し状況が変わってくる.3次元ランダムウォークの場合,たとえ無限に歩き続けたとしても,出発点に戻ってくる確率はおよそ0.34にすぎない.3次元では進める方向が多すぎて,偶然に出発点に戻ってくるのはそう簡単なことではないのである.
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【3】特性関数を用いた再帰確率の計算
Durrett: Probability: theories and examples
にある結論だけ示しますと,d次元超立方格子上のランダムウォークにおいては,
Σu2n=(2π)^(-d)∫(-π,π)Re(1-φ(t))^(-1)dt
φ(t):特性関数φ(t)
が成り立つというものです.
とくに,3次元の場合は,
Σu2n
=(2π)^(-3)∫∫∫((-π,π)dxdydz/(3−cosx−cosy−cosz
=(2π)^(-3)∫(-π,π)(1−1/3Σcost)^(-1)dt
=(√6/32π^3)Γ(1/24)Γ(5/24)Γ(7/24)Γ(11/24)
=1.51638・・・
と評価され,したがって,
Σf2n=(Σu2n−1)/Σu2n=1−1/Σu2n
=0.34053・・・
と計算できます.
また,
Kondo and Hara (1987)
の文献からd次元格子上における酔歩の再帰確率pdを引用すると,
d pd d pd
1 1 13 .041919
2 1 14 .038657
3 .340537 15 .035869
4 .193201 16 .033458
5 .135178 17 .031352
6 .104715 18 .029496
7 .085844 19 .027848
8 .072912 20 .026375
9 .063447 30 .017257
10 .056197 40 .012827
11 .050455 100 .005050
12 .045789
すなわち,3次元と4次元ランダムウォークの再帰確率は,正確には,
0.340537329550999...
0.193201673224984...
です.
再帰確率はdが大きいほど小さくなりますが,dが十分に大きいとき,第1種0次の変形ベッセル関数を使って,
Σu2n=∫(0,∞)exp(-x){I0(x/d)}^ddx
〜 1+2!/2(2d)+3!/2(2d)^2+4!/2(2d)^3+5!/2(2d)^4+5*71/2(2d)^5+・・・
より,
pd 〜 1/(2d){1+1/d+7/(4d^2)+35/(8d^3)+215/(16d^4)}
で漸近近似されることがその論文には記されています.
次元数dが大きければ原点の戻る確率は,およそ
pd 〜 1/(2d)
ですが,
1/2(d−1)=1/(2d){1+1/d+1/(d^2)+・・・}
ですから,式
pd 〜 1/2(d−1)
は簡単な割には漸近確率をよく近似し,
pd 〜 1/(2d−1) あるいは pd 〜 1/(2d)
よりも外挿した際の誤差が小さいことが理解されます.
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