【四時】
四時
春水滿四澤 春水 四沢に満ち
夏雲多奇峰 夏雲 奇峰に多し
秋月揚明暉 秋月 明暉を揚げ
冬嶺秀孤松 冬嶺 孤松秀でたり
【現代語訳】
春には水が四方の沢に満ち
夏には高い峰に雲がかかっている
秋には月が明るく輝き
冬には松が嶺に一本たっている
【解説】
これも偽作とほぼ断定されている.ただし,「陶淵明箋注」(袁行霈 中華書局)では真作として第三巻の最後に収録されている.
偽作とされる最大の根拠は,あまりにもきれいすぎるということだ.各句とも,陶淵明らしい表現だ.それが疑惑の根拠である.
偽作説では
「顧長康の詩が,陶彭沢(陶淵明のこと)の全集に紛れ込んでしまった」とか,「これは,顧凱之の神情詩である」とか,陶淵明の詩から四句をうまく摘句したものだとか,いろいろある.
(陶淵明集校箋 楊勇 上海古籍出版社)参照
顧凱之(345?-406) (字は長康)は東晋時代の画家である.ただ,この作品も捨てがたく,日本の「陶淵明集」に採録されてもよいとおもう.
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【まとめ】
以上,陶淵明の偽作三首を取り上げた.
なお,「田園の居に帰る」(その六)は多くの人が真作だと信じている.蘇軾もその一人であり,この詩に唱和している.また,「字源」(角川書店)でも「三益」の用例としてこの詩を引用している.
陶淵明というと,「田園の居に帰る」,「飲酒」,「五柳先生伝」,「帰去来の辞」,「桃花源記」を思い浮かべる.要は,酒好きの,世俗を超越した隠遁者というのが既成のイメージである.
それ以外にもいろいろな側面がある.これは,魯迅の評論集などにのべられており,陶淵明全集を読み返してつくづくそう思ったことである.たとえば,「山海経を読む」とか,「酒を述ぶ」,「閑情の賦」など.
いろいろな側面を知りたいと思い,中国で出版されている陶淵明集を読む機会を得た.この時に,三つの偽作の詩を読む機会を得た.
陶淵明の真作には優れた解説書が出ている.
(陶淵明全集(岩波文庫)(全二巻),陶淵明集全釈(明治書院))
しかし,偽作とされる三首は上記の書籍に採録されておらず,日本語の解説は出ていいない.そこで,自分で訓読し,自分で真作かどうか推理して見たくなったのである. (阪本ひろむ)
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