■陶淵明の偽作(問来使)

【問來使】

問來使     問来使(もんらいし)

爾從山中來  爾(なんじ)山中より来たり

早晩發天目  早晩天目に発せん

我家南窗下  我が家,南窓(なんそう)のもと

今生幾叢菊  いま,生ず 幾叢菊ぞ

薔薇葉已抽  薔薇の葉すでにひき

秋蘭気當馥  秋蘭,気まさに馥(かお)るべし

歸去來山中  帰りなん 山中に

山中酒應熟  山中 酒 まさに熟すべし

【現代語訳】

きみは山の中から来て

遅かれ早かれ天目山に出立するだろう

我が家の南の窓の下には

今,どれだのムラキクがはえていることか

イバラのはははえいでて

秋の蘭はかおっているだろう

さあ,帰ろう 山中に

山中では,酒がいい案配に熟成しているだろう

【語釈】

天目 天目山の事.浙江省臨安県西北五十里にあり,陶淵明の住む県と安吉県に接する.

叢菊 ムラキク

薔薇 いわゆるroseではなく,イバラと類と思われる

抽  かりに,「ひく」と訓読した.薔薇の葉の棘をとるという意味と,葉が生えるという意味があるようだ

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【解説】

 これも陶淵明の偽作(あるいは擬作)と断定されている.元々は陶淵明集巻二の「田園の居に帰る」の後に採録されている.

 偽作であるとされる最大の理由は「帰去来山中」の句にある.帰去来はまさに「帰去来の辞」の冒頭の名句である.陶淵明自身が自分の作品の盗作するはずはない.

 また,つねに陶淵明の帰るところ,酒を醸造するところはあくまでも田園である.この点でも非常に不自然である.

 李太白(李白)の「潯陽感秋詩」に「陶令帰去来,田家酒應熟」の二句があり,この詩もそれを模したものと推定される.?欽立(りょく・きんりつ)によれば宋の蘇子美の作品とのこと.

 ?は,しんにゅうに緑の右側を組み合わせた漢字です.(JISコード,シフトJISコードに該当する文字なし,UNICODE U+902F  UTF8 コード E9-80-AFに該当する漢字です.   (阪本ひろむ)

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