【問來使】
問來使 問来使(もんらいし)
爾從山中來 爾(なんじ)山中より来たり
早晩發天目 早晩天目に発せん
我家南窗下 我が家,南窓(なんそう)のもと
今生幾叢菊 いま,生ず 幾叢菊ぞ
薔薇葉已抽 薔薇の葉すでにひき
秋蘭気當馥 秋蘭,気まさに馥(かお)るべし
歸去來山中 帰りなん 山中に
山中酒應熟 山中 酒 まさに熟すべし
【現代語訳】
きみは山の中から来て
遅かれ早かれ天目山に出立するだろう
我が家の南の窓の下には
今,どれだのムラキクがはえていることか
イバラのはははえいでて
秋の蘭はかおっているだろう
さあ,帰ろう 山中に
山中では,酒がいい案配に熟成しているだろう
【語釈】
天目 天目山の事.浙江省臨安県西北五十里にあり,陶淵明の住む県と安吉県に接する.
叢菊 ムラキク
薔薇 いわゆるroseではなく,イバラと類と思われる
抽 かりに,「ひく」と訓読した.薔薇の葉の棘をとるという意味と,葉が生えるという意味があるようだ
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【解説】
これも陶淵明の偽作(あるいは擬作)と断定されている.元々は陶淵明集巻二の「田園の居に帰る」の後に採録されている.
偽作であるとされる最大の理由は「帰去来山中」の句にある.帰去来はまさに「帰去来の辞」の冒頭の名句である.陶淵明自身が自分の作品の盗作するはずはない.
また,つねに陶淵明の帰るところ,酒を醸造するところはあくまでも田園である.この点でも非常に不自然である.
李太白(李白)の「潯陽感秋詩」に「陶令帰去来,田家酒應熟」の二句があり,この詩もそれを模したものと推定される.?欽立(りょく・きんりつ)によれば宋の蘇子美の作品とのこと.
?は,しんにゅうに緑の右側を組み合わせた漢字です.(JISコード,シフトJISコードに該当する文字なし,UNICODE U+902F UTF8 コード E9-80-AFに該当する漢字です. (阪本ひろむ)
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