x^2+y^2
を実数の世界で因数分解することはできませんが,複素数を使うと
x^2+y^2=(x+yi)(x−yi)
のように因数分解できます.また,
a^2+b^2+c^2−ab−bc−ca
は,ω(1の虚立方根)=(i√3−1)/2を用いると
(a+bω+cω^2)(a+bω^2+cω)
と書くことができます.
x^2+y^2+z^2
は複素数の助けを借りても因数分解できませんが,4元数を用いると,
x^2+y^2+z^2+w^2=(x+yi+zj+wk)(x−yi−zj−wk)
ですから,
x^2+y^2+z^2=−(xi+yj+zk)^2
のように因数分解できます.
このシリーズのネタは複素数を使っても因数分解できなかった
x^2+y^2+z^2
x^2+y^2+z^2+w^2
をトリックを用いて分解する方法を紹介したいと思います.
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【1】複素数と行列
平面の回転行列は
[cosθ,−sinθ]
[sinθ, cosθ]
の形に書けます.
ある複素数に虚数単位iをかけると
zi=(x+yi)i=−y+xi
となり,この操作は90°回転に対応することがわかります.そこで,回転行列にθ=π/2を代入すると
J=[0,−1]
[1, 0]
となります.
複素数平面でiが果たす役割と行列Jが果たす役割は等しいのですが,実際にこの行列を2乗すると
J^2=[1,0]=−E
[0,1]
となって,虚数のもっている性質を備えていることがわかります.
「E→1,J→iと置き換える」ことを踏まえると,複素数に対応した行列を導入することができます.
Z=xE+yJ=[x,−y]
[y, x]
ここで,
E=[1,0] J=[0,−1]
[0,1] [1, 0]
Z’=xE−yJ=[ x,y]
[−y,x]
Z・Z’=[x^2+y^2,0]=(x^2+y^2)E
[0,x^2+y^2]
ですから,(x^2+y^2)Eという行列が(虚数単位iを陽に用いることなしに)行列Zと行列Z’の積に分解できたことになります.
また,オイラーの公式
exp(iθ)=cosθ+isinθ
を行列で表現すると
exp(Jθ)=(cosθ)E+(sinθ)J
=[cosθ,−sinθ]
[sinθ, cosθ]
となって,確かに回転行列になっていることがわかります.
[問]2次の正方行列でX^2=−Eを満たすものは,複素数の範囲では
[i,0]
[0,i]
などがある.実数の範囲でも解は無数にある.その解をすべて求めよ.
[補]E,Jはそれぞれ対称行列(B’=B),交代行列(B’=−B)になっています.任意のn次正方行列Aに対して,
B=(A+A’)/2,C=(A−A’)/2
とおけば,Bは対称行列,Cは交代行列であって,
A=B+C
のような分解は一意で与えられます.
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【2】iのi乗
オイラーの定理:
exp(iθ)=cosθ+isinθ
において,θ=πを代入すると,exp(iπ)=−1という有名な式が得られる.
一方,i^2=−1であるから
exp(iπ)=i^2
両辺をθ/π乗すると
exp(iθ)=i^(2θ/π)=cosθ+isinθ
が成り立つ.
θ=π/2のとき,i=i
θ=π/4のとき,i^(1/2)=(1+i)/√2
θ=π/6のとき,i^(1/3)=(√3+i)/2
iの実数乗は回転作用を表すことがわかる.
さらに,両辺をi乗すると
exp(−θ)=i^(2iθ/π)=(cosθ+isinθ)^i=cosiθ+isiniθ
が成り立つ.
θ=π/2のとき,i^i=exp(−π/2)
θ=π/4のとき,i^(i/2)=exp(−π/4)
θ=π/6のとき,i^(i/3)=exp(−π/6)
iの虚数乗は実数になることがわかるが,これは原点からの距離(ノルム)の増減作用を表していると考えられる.
また,
exp(−θ)=i^(2iθ/π)=cosiθ+isiniθ
exp(θ)=i^(-2iθ/π)=cosiθ−isiniθ
に,θ=1を代入すると
1/e=cosi+isini
e=cosi−isini
cosi=(e+1/e)/2
sini=(e−1/e)/2i
となる.
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【3】JのJ乗
複素平面上における回転作用素は
exp(iθ)=i^(2θ/π)=cosθ+isinθ
と表せるので,実平面上における回転作用素は
J^(2θ/π)=Ecosθ+Jsinθ
と表せる.
たとえば,θ=π/6のとき,
J^1/3=Ecosπ/3+Jsinπ/3=√3/2E+1/2J
=[√3/2,−1/2]
[1/2,√3/2]
実際,両辺を3乗すると
J=[0,−1]
[1, 0]
となることがわかる.実平面上における回転作用素は実数の行列なのである.
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