龍谷大学で行われた研究会で,前原濶先生(元琉球大,現東海大)が「正多面体に手錠をはめる」という面白い話をされたそうである.正四面体を1辺の長さの90%の直径をもつ円形の穴を通すことができるなどは,やってみれば理解できるが,意外な事実ではないだろうか.
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【1】正多面体とペトリー多角形
紀元前3世紀の頃(ユークリッドの時代),既に5種類の正多面体は知られていたといわれています.これら5個はすべて頂点がひとつの球面上にあり,Dを球面の直径,aを内接する正多面体の辺の長さとすると,
立方体 → D^2=3a^2
正四面体 → D^2=3a^2/2
正八面体 → D^2=2a^2
正十二面体 → D^2=(5+√5)a^2/2
正二十面体 → D^2=3(3+√5)a^2/2
また,Vを体積,aを正多面体の辺の長さとすると,
立方体 → V=a^3
正四面体 → V=√2a^3/12
正八面体 → V=√2a^3/3
正十二面体 → V=(15+7√5)a^3/4
正二十面体 → V=5(3+√5)a^3/12
このことから,半径rの球の体積と等しい正四面体の1辺の長さは2r√πとなります.
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正多面体の点心図,辺心図,面心図をみると,その中に正射影として輪郭が正多角形に見える方向があります.たとえば,正四面体の4つの頂点は同一平面上にありませんが,辺心図をみると輪郭は正方形に見えます.
立方体 → 点心図が正六角形に見える
正四面体 → 辺心図が正方形に見える
正八面体 → 面心図が正六角形に見える
正十二面体 → 面心図が正十角形に見える
正二十面体 → 点心図が正十角形に見える
これらの正射影では,もとの正多角形の中点をうまく結んだ正多角形ができます.この正多角形をペトリー多角形,この面をペトリー面(赤道面)といいます.
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【2】正四面体の通り抜ける円形の穴の下限
正四面体の2組の相対する辺はねじれの位置にありますが,その中点を結ぶ直線はこれらの辺に直交します.稜の長さが√2の正四面体の対辺の中点を結ぶ直線の長さは1となるのですが,ここではちょっと風変わりな方法で求めてみることにします.
n次元正単体の境界多面体はn−1次元正単体,n+1次元正単体の境界多面体はn次元正単体である.正単体をn次元空間内で作ると一般に座標が無理数になる.そこで,n次元正単体の代わりに,全体を1次元あげてn+1次元正単体の境界多面体をとることにする.
境界多面体はn+1次元空間内のn+1個の単位点(1つだけ座標が1で他が0である点)
V1(1,0,・・・,0,0)
V2(0,1,・・・,0,0)
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Vn+1(0,0,・・・,0,1)
から生成される.これらの頂点間距離は√2である.
V1(1,0,0,0)
V2(0,1,0,0)
V3(0,0,1,0)
V2(0,0,0,1)
とすると2つの中点の座標は(1/2,1/2,0,0)と(0,0,1/2,1/2)になるから,中点間距離は1.
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1辺1の正四面体に対して,可能な下限は中央の切り口(ペトリー面)−1辺が1/2の正方形(ペトリー多角形)の対角線(長さ1/√2)を直径とする円であることはすぐにわかるが,これは正四面体の1辺の長さの70%であって,90%ではない.
前原先生の講演では,結果だけで詳しい証明には立ち入らなかったそうである.90%といったのはおおざっぱな値で,正確な境界は89,6%余りで,これはある有理関数の極値をコンピュータを援用して計算した値とのことである.詳細がわかり次第,本HPでも報告したいと考えている.
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