先日,秋田で行われた高校2年生対象のセミナーの様子をレポートします.対象は高校2年生24名(8名×3班)です.ベクトルは一部の生徒を除き,大半が履修済み.とはいっても実際にベクトルを使って証明した経験はごく少ないものと思われます.
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【1】イントロダクション
数学ではこのような演習が重要なこと(Seeing is proving)に触れた後,(その12)に掲げたルーブリックにしたがい,演習を進めました.4時間以内に完結させるため,事前にワークシートを作成.それは時間制限の関係もあったのですが,まったくノーヒントで「対角線の長さの2乗和」=「頂点数の2乗」を導くのは困難かつ無謀に思われたからです.ワークシートはステップ1,ステップ2,ステップ3からなります.
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【2】ステップ1
まず,ステップ1だけを配布.順調に作図,計測,計算は完了.n=3,4,6については教具を一切使わず,計算だけで求めた班もあったそうです.
空欄を埋めさせたあとの各班の代表による発表では,予期せぬ珍解答・迷解答が続出しました.
(1) 「対角線の長さの2乗和」が「頂点数の2乗」になるという結果は,どの班もすぐにわかったようである.ただし,この段階では「辺数の2乗」という結果もあり得るが,3次元図形の場合「頂点数の2乗」でなければならないことがあとで明らかになる.
(2) 辺を含め,対角線の数がnC2=n(n-1)/2になるという答えを期待したが,正解したのは1班のみ.「数列3,6,10,15,・・・が階差数列になる」で止まってしまった班.正n角形の対角線の数はn(n-3)/2とした班.これは正しい答えではあるのだが,その公式を中学で教わって知っていたからであって,対角線の本数n(n-3)/2+辺の本数n=nC2となることがわからない).他にも珍解答,迷解答多数.
(3) 対角線の長さの総和についてはまったく意見は出ず.しかし,正n角形の1辺の長さを2rsin(π/n)とした生徒がいた.
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【3】ステップ2
次にベクトルのおさらいを実習担当の高校の先生が指導.一般の正n角形の場合でも“各対角線の2乗の総和”は“頂点数の2乗”が成り立つことの証明に挑戦させる.
しかし,程なく全員お手上げ状態になる.そこで高校の先生たちと協議し,一般のnでなく,n=6の場合について証明させることにした.同時にヒントとなる図を与えた.
内積の計算では角度(30°の倍数)を使って計算していて,p1+p2+p3+p4+p5+p6=0を利用する解法には気づかなかったようだ.高校の先生がp1+p2+p3+p4+p5+p6=0を示した後,秋山仁先生による模範解答を配布した.
単位球に内接する立方体(頂点数8,辺数12)についての穴埋めは時間がかかった.3次元用の教具も必要と思われる所以である.最終的には各班とも対角線の長さの2乗の和=64を導くことができた.ここではじめて「頂点数の2乗」になることが判明したわけである.また,この事実を用いて,単位球に内接する正四面体の1辺の長さを簡単に求めることができた.
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【4】ステップ3
ここで時間切れで,ステップ3にはまったく進めず.パワーポイントで実習内容を補足した.高校生にとっては4次元図形を見ることは初めての経験であったと思う.
最後に指導にあたられた高校指導課の先生から“各対角線の2乗の総和”=“頂点数の2乗”の証明は大学入試の問題としては難問とはいえないレベルの問題であることを聞かされ,不安にかられた生徒もいたが,その意味でもいい体験学習であったのではないかと思う (佐藤郁郎).
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