これは円(球)の性質を高校生が自ら発見するための体験型数学演習である.円(球)に内接する正多角形(正多面体)のもつ美しい性質を教具を用いた実験を通して解き明かしていく.
取り上げる円(球)の性質「単位球に内接する正多面体のすべての辺と対角線の長さの2乗和は頂点数の2乗に等しい」は基本的なものであるが,実は大学の数学科の先生でも知っている人はいない(たとえいたとしてもごくわずかである).
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【1】授業の進め方
[1]30人を5人ずつ位,5〜6班に分け,共同で作業させる.各班に模型を1台ずつ与える.班の数だけ用意するものとして,長めのものさしと電卓(√が計算できるもの).以下に,東海大学芸術工学部の山口康之先生製作の教具の写真を掲げる.
[2]円周上に等間隔に配置されたn点を結んで完全グラフを作る.それは正n角形のすべての辺と対角線になるが,以後,辺も含め対角線と呼ぶことにする.
[3]正3角形,正方形,正5角形,正6角形について,対角線の長さを調べさせる.長さの異なるものは何種類あり,何本ずつあるかなど. 対角線の長さは実測してもピタゴラスの定理を用いてもよいが,実測した場合は規格化するために,実測値を教具の円の半径で割る必要がある.
[4]上記4種から予想される円の性質は? 一般に,正n角形の対角線(辺も含む)は全部で何本あるかなど. 何も回答がなければヒントを出す.例えば「長さを2乗したらどうか」など.偶数角形のほうがやさしいが,奇数角形でも同じ結果が得られる.
[5]“各対角線の2乗の総和”は“頂点数の2乗”が導き出せたら,それをを一般化できないか議論させ,平面で一般の正n角形の場合の証明に挑戦させる.2次元で偶数角形の場合はピタゴラスの定理を用いた証明がほとんどと思われるが,d次元の場合はベクトルを用いるほうがやさしい.
[6]3次元ではどうなるかを議論させ,その証明に挑戦させる.“各対角線の2乗の総和”=“頂点数の2乗”という性質を満たす正多面体以外の図形は? また,より高次元について類推させる.
[7]発表
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【2】最初のステップの問題
とはいっても時間制限はつきものだろう.数時間以内で完結させるためのヒントを問題文の中に入れておいた.
[Q]円周上に等間隔に配置されたn点を結んで完全グラフを作る.以下の項目を実測し,計算をして空欄を埋めよ.
[1]円の半径 (これは単位円に規格化するために用いる)
[2]正三角形の辺について
長さ,長さ/円の半径(=a),(長さ/円の半径)の2乗(=b),本数(=c),a×c,b×c
[3]正方形の辺と対角線について
長さ,長さ/円の半径(=a),(長さ/円の半径)の2乗(=b),本数(=c),a×c,b×c
[4]正方形の辺と対角線についての総和
本数(Σc),長さの総和(Σa×c),長さの2乗の総和(Σb×c)
[5]正五角形の辺と対角線について
長さ,長さ/円の半径(=a),(長さ/円の半径)の2乗(=b),本数(=c),a×c,b×c
[6]正五角形の辺と対角線についての総和
本数(Σc),長さの総和(Σa×c),長さの2乗の総和(Σb×c)
[7]正六角形の辺と長短の対角線について
長さ,長さ/円の半径(=a),(長さ/円の半径)の2乗(=b),本数(=c),a×c,b×c
[8]正六角形の辺と長短の対角線についての総和
本数(Σc),長さの総和(Σa×c),長さの2乗の総和(Σb×c)
[9]以上の結果から,正n角形についてはどのような結果が予想されるか?
[A]解答例
本数(Σc)=n(n−1)/2=N
長さの2乗の総和(Σb×c)=n^2
長さの総和に関する不等式として,
(Σb×c)<(Σa×c)^2<N・(Σb×c)<n^4/2
が成り立つ.これについては発展問題で触れることにする.
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【3】次のステップの問題
[1]ベクトルを使って性質「単位円に内接する正n角形のすべての辺と対角線の長さの2乗和は頂点数nの2乗に等しい」を証明せよ.
(注意)nが偶数の場合はピタゴラスの定理を使っても証明は可能であるが,ここではベクトルを用いること.ベクトルの内積とノルムについては既知とする.
[2]半径(√3)/2の球に内接する立方体の辺の長さは1である.立方体の辺と長短の対角線について
長さ,長さ/円の半径(=a),(長さ/円の半径)の2乗(=b),本数(=c),a×c,b×c
[3]立方体の辺と長短の対角線についての総和
本数(Σc),長さの総和(Σa×c),長さの2乗の総和(Σb×c)
[4]平面の正n角形について成り立つ性質「単位円に内接する正n角形のすべての辺と対角線の長さの2乗和は頂点数nの2乗に等しい」は正多面体についても成り立つか? 「単位球に内接する正多面体のすべての辺と対角線の長さの2乗和は頂点数の2乗に等しい」を証明せよ.
[5]この定理を用いて,単位球に内接する正四面体に1辺の長さを求めよ.
[6]1辺の長さが1の正四面体がくぐり抜けられる最小の円の直径を求めよ.
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【4】発展問題
[1]長さの総和の2乗と長さの2乗の総和の間に成り立つ関係は?
(Σa×c)^2の上界は高校生には難しいかもしれないが,
u=(1,1,・・・,1),v=(d1,d2,・・・,dN)
に対して,コーシー・シュワルツの不等式(u・v≦|u||v|)を適用すれば,
(Σa×c)^2≦N・(Σb×c)<n^4/2
(等号は正三角形のとき)
コーシー・シュワルツの不等式によらない場合は,
2(a^2+b^2)−(a+b)^2=(a−b)^2≧0
3(a^2+b^2+c^2)−(a+b+c)^2=(a−b)^2+(b−c)^2+(c−a)^2≧0
4(a^2+b^2+c^2+d^2)−(a+b+c+d)^2=(a−b)^2+(b−c)^2+(c−d)^2+(d−a)^2≧0
より,
NΣdi^2−(Σdi)^2≧0 (等号はd1=d2=・・・=dNのとき)
を導き出すことができる.
[2]n点から(重複を許さず)2点を選ぶ組み合わせ数:nC2=n(n−1)/2は正n角形の辺と対角線の総数となる.それでは,nが奇数のとき,n点から(重複を許さず)4点を選ぶ組み合わせ数:nC4=n(n−1)(n−2)(n−3)/24は? (正n角形の対角線の交点数)
[3]nC4=n(n−1)(n−2)(n−3)/24>2010となる最小のnを求めよ.
n=17が答えであるが,やみくもにnを見積もるのではなく,たとえば,
n^4あるいは(n−1.5)^4>n(n−1)(n−2)(n−3)
(n−1.5)^4>24・2010≒5・10^4
(n−1.5)^2>√5・10^2
(n−1.5)>√√5・10, n>16.5
[4]n点から(重複を許さず)3点を選ぶ組み合わせ数:nC3=n(n−1)(n−2)/6は三角形の総数となる.それでは,円周を12等分する点が与えられているとき,正三角形,二等辺三角形,直角三角形の総数を求めよ. (答えはそれぞれ4個,52個,60個)
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