■n次元正多面体の辺と対角線(その8)

 1辺の長さが1の正多角形を考える.正三角形は対角線をもたないが,正六角形には長さ√3と2の2種類の対角線がある.対角線の長さが1種類なのは正方形の√2と正五角形の(1+√5)/2に限られる.√2とφ=(1+√5)/2は1辺と対角線の長さの比である特別な値であって,それぞれ白銀比,黄金比と呼ばれている.

 正三角形面からなる多面体である正四面体,正方形面からなる多面体である立方体,正五角形面からなる多面体である正十二面体を考える.正四面体は対角線をもたないが,立方体には長さ√2と√3の2種類の対角線がある.正十二面体には長さτ,τ√2,τ^2,τ√3の4種類の対角線がある.

 その4次元版である正5胞体,正8胞体,正120胞体を考える.正5胞体は対角線をもたないが,正8胞体には長さ√2と√3と2の3種類の対角線がある.正120胞体には29種類の対角線がある.一般に,n次元の正n+1胞体は対角線をもたないが,正2n胞体には長さ√2,√3,・・・,√nのn−1種類の対角線がある.

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【1】m次元単体の稜の全長について

 m次元単体の頂点数はV=m+1,稜数は(m+1,2)=m(m+1)/2=Eで与えられます.

 単位球に内接する正多面体の対角線の長さの平方和は頂点数の2乗に等しい.

  Σdi^2=v^2

また,外心と重心が一致しない場合は

  Σdi^2=v^2(1−c^2)

が成り立ちます.単体は対角線をもたないので,左辺は稜の長さの2乗和になります.

 ここでは長さの2乗和でなく,長さの総和について調べてみますが,

  (1,1,・・・,1),(d1,d2,・・・,de)

に対して,コーシー・シュワルツの不等式を適用することによって,単位球に内接するm次元単体の稜の全長について

  L=Σdi≦V{E(1−c^2)}^1/2

が成り立つことがわかります.

 等号はc=0(外心と重心が一致)し,その単体が正則であるときです.

  L=V√E

  m=2 → L=3√3 (正三角形)

  m=3 → L=4√6 (正四面体)

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【2】3次元多面体の稜の全長について

 3次元多面体の場合を考えてみるために,

  ωn=n/(n−2)・π/6   n≧3

を導入しておきます.球面上にn個の点を配置した場合,2n−4はn個の頂点をもつ三角形面正多面体の面数となりますから,△n=6ωn−πは単位球面が分割されてできる球面三角形の平均面積,また,球面正三角形の場合,2ωnは面積が6ωn−πの球面正三角形△nの1つの内角を表しています.

 単位球面をn(≧3)個の等面積な部分に分割する網目の長さの総和Lについては,

  L≧6(n−2)arccos(2/√3ωn)

等号は3稜頂点多面体の球面網に対してのみ成り立ちます.

 また,表面積Sの凸多面体のすべての面が等面積ならば,稜の全長は

  L≧√(6(n−2)Stanωn)

等号は3稜頂点多面体に対してのみ成り立つ.

 以上より,与えられた直径Dの球を内部に含むならば,L/Dの値は立方体のとき最小値をとり,

  L≧12D

となることが証明されています.立方体が最小の稜の長さの和をもつのです.

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【3】m次元単体の三角不等式について

 三角不等式というと「三角形の2辺の和は他の1辺より長い」が思い起こされますが,与えられた三角形の外接円の半径Rおよび内接円の半径rとおくと,

  R≧2r

となることを主張する,もうひとつの三角不等式を証明してみることにしましょう.

(問題)R≧2r   等号は正三角形のときに限る.

(証明)

 外接円と内接円の中心間の距離をdとおくとき,R^2−2Rr=d^2が成り立ちます(オイラーの定理).この関係式を導き出せば,ただちにR≧2rがわかるのですが,この関係式を導き出すことは見かけよりもやっかいで,ヘロンの公式を使ったほうがほうが簡単です.

 ヘロンの公式とは,任意の三角形の三辺の長さをa,b,c,面積をΔとして,

Δ^2=(2a^2b^2+2b^2c^2+2c^2a^2−a^4−b^4−c^4)/16

  =(a+b+c)(−a+b+c)(a−b+c)(a+b−c)/16

 ここで,2s=a+b+cとおくと

Δ^2=s(s−a)(s−b)(s−c)

となり,おなじみの平面三角形のヘロンの公式が得られます.

 外接円の半径Rおよび内接円の半径rをa,b,c,Δで表すと,

  abc=4RΔ       (正弦定理)

  (a+b+c)r=2Δ   (寄木細工定理)

ここで,

  s1=a+b+c,

  s2=ab+bc+ca,

  s3=abc

とおくとき,R≧2rは

  s1s3≧16Δ^2

  s1^3−4s1s2+9s3≧0

と同値.

 実際にやってみると

  s1^3−4s1s2+9s3=1/2[(b−c)^2(b+c−a)+(c−a)^2(c+a−b)+(a−b)^2(a+b−c)]≧0

b+c−a>0,c+a−b>0,a+b−c>0ですから,等号はa=b=cのときに限ることがわかります.

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 とはいってもこれを計算で出すのは大変ですし,この方法で高次元への拡張がうまくいくとはとても思えません.そこで,簡単な補助定理

a)n次元球に内接および外接するすべての単体のなかで正則単体はそれぞれ最大および最小の体積をもっていること

b)一様な棒の重心は両端の間の距離を1:1に,三角形の重心は中線を2:1に,四面体の重心は頂点と向かいあう面の重心との距離を3:1に内分します.すなわち,四面体の重心は1つの面の重心から対頂点に引いた直線の1/4の点にあること,・・・

を使うことによって,以下の不等式が得られます.

 三角不等式:R≧2rは3次元空間へも拡張できて,4面体では

  R≧3r   (4面体不等式)

三角形の重心の性質は四面体に遺伝するのです.

 また,4次元以上でもこの規則性が失われることはありそうもなく,同様に類推されます.すなわち,n次元単体でも同様に

  R≧nr   (単体不等式)

が成り立ちます.一般に,体積が与えられた単体において,頂点からある任意の点までの距離の和は,その単体が正則でありかつその点が重心であるときに極小値に達します.

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