定規とコンパスだけで正3角形,正4角形,正6角形,正8角形が作図できることは簡単にわかりますが,辺の数5,7,9の場合はどうでしょうか.
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【1】cos(π/7)とcos(π/9)
正5角形は古代ギリシャにおいて作図可能であることが発見されました.正5角形の作図は黄金比と関連していて,2次方程式:x^2−x−1=0を解く,すなわち(√5+1)/2を求めることによって可能となりました.ギリシャ人は黄金分割を用いた見事な方法で正五角形の作図に成功したのですが,この方法は二次方程式の幾何学的解法を利用した賢明な方法といえます.
となれば,次に正7角形・正9角形の作図は?と考えるのは自然な成り行きでしょう.正7角形=cos(π/7)が3次方程式:8x^3−4x^2−4x+1=0に帰着することは(その18)で見たとおりですが,正9角形はx=cos(π/9)とおくと,3倍角の公式
4x^3−3x=cos(π/3)=1/2
より,3次方程式:8x^3 −6x+1=0に帰着します.あるいは,θ=π/9,cosθ=xとおくと
9θ=π,5θ=π−4θ
より,
cos5θ=−cos4θあるいはsin5θ=sin4θ
前者は5次方程式
16cos^5θ−20cos^3θ+5cosθ=−8cos^4θ+8cos^2θ−1
となるが,後者は
16sin^5θ−20sin^3θ+5sinθ=8sinθcos^3θ−4sinθcosθ
16sin^4θ−20sin^2θ+5=8cos^3θ−4cosθ
よりcosθ関する3次方程式に帰着するというわけである.
したがって,正7角形,正9角形の作図や倍積問題のように3次方程式に帰着する作図問題は+−×÷√の演算を組み合わせても解けません.
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【2】チェビシュフ多項式
ところで,ド・モアブルの定理:
(cosθ+isinθ)^n=cosnθ+isinnθ
の左辺を2項展開して,両辺の実部,虚部を比較すると
cosnθ=(cosθ)^n−nC2(cosθ)^n-2(sinθ)^2+・・・=(cosθのn次多項式)=Tn(cosθ)
sinnθ=nC1(cosθ)^n-1sinθ−nC3(cosθ)^n-3(sinθ)^3+・・・=sinθ×(cosθのn−1次多項式)=sinθ×Un(cosθ)
を得る.
このことから,cos(π/n),n=2m+1のとき,
cos(m+1)θ=−cosmθとsin(m+1)θ=sinmθ
では後者の方が方程式の次数が下がり,m次方程式となることがおわかりいただけるであろう.
なお,
cosnθ=cosθcos(n−1)−sinθsin(n−1)θ
sinnθ=sinθcos(n−1)+cosθsin(n−1)θ
より,漸化式
Tn(cosθ)=cosθTn-1(cosθ)−(sinθ)^2Un-1(cosθ)
Un(cosθ)=Tn-1(cosθ)+cosθUn-1(cosθ)
Tn(cosθ)=2cosθTn-1(cosθ)−Tn-2(cosθ)
Un(cosθ)=2cosθUn-1(cosθ)−Un-2(cosθ)
が成り立つ.
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【3】cos(π/17)
辺数3,4,5,6,8,10,12,15,16の正多角形は作図できますが,辺数7,9,11,13,14の正多角形は作図できないことから,正17角形もそうであろうと推察されます.ところが,1796年,ガウスは19才のときに正17角形の作図を思いつき,のみならず,nが素数の正n角形について,n=2^2^m+1が素数の場合に限り定規とコンパスだけで作図可能であることを発見しています.
nが素数の場合のみを扱うが,cos(π/11),cos(π/13)は省略して,x=cos(π/17)とおくと,
sin9θ=sin8θ
より,8次方程式
256x^8−448x^6+240x^4−40x^2+1=128x^7−192x^5+80x^3−8x
に帰着する.この問題は+−×÷√の演算を組み合わせると解けて,x=0.982973になる.
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正7角形も正9角形も作図できないのに,まさか正17角形が作図できるとはと思うのが普通なのでしょうが,このことを用いると,m=0のとき正3角形,m=1のとき正5角形,m=2のとき正17角形となり,作図可能であることがわかります.当然,ずっと面倒になるでしょうが,正257角形(m=3),正65537角形(m=4)も作図可能です.
2^2^m+1の形の素数をフェルマー素数といいます.フェルマー素数はガウスによって1世紀にわたる眠りから覚まされ,数論と幾何学に新たな美しさを吹き込んだことになります.フェルマーはこの型の数がすべて素数だと勘違いしていて必ず素数を与える式として考え出されたのですが,m=5のときは素数ではなく,現在,m=0,1,2,3,4の5個以外にフェルマー素数はみつかっていません.6番目のフェルマー素数の探索がコンピュータを使ってなされていますが,はたして本当に存在するのでしょうか.
アルキメデスは円柱とそれに内接する球の体積比が3:2であることを発見した記念に,自分の墓の上に円柱の形をした記念碑をおくように遺言したといわれています.アルキメデスと同じように,ガウスは正17角形を墓石に彫るよう遺言しています.このことはガウス自身がその発見をいかに重視したかを物語っています.数々の大発見をしたガウスですが,19才の青年がアルキメデスをもってしてもできなかった古代ギリシア以来2000年の謎を解いたのですから,まさに驚きとしかいいようがありません.この正17角形の作図は彼を本格的に数学の道に入らせるきっかけとなったといわれています.
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