■デーン不変量と二面角の幾何学(その43)

 (その42)に引き続いて,正多面体元素定理の証明の考え方の変遷を振り返ってみることにする.

===================================

【1】デーンの定理の一般化

 3次元では,5種類の正多面体で

  n1δ4+n2δ6+n3δ8+n4δ12+n5δ20≠0  (mod π)

 →N1δ4+N2δ12+N3δ20≠0  (mod π)

すなわち,デーンの定理(N1δ4≠0,mod π)の一般化において,整数係数(有理係数)での線形独立性が成り立ち,必要な原子が最低4種類という結論が主張できた.このことから正多面体の元素数は少なくとも4種類であり,実際,RT,正四面体,正十二面体,正二十面体で元素数4の例が構成できることを示すことによって,at most 4とat least 4,これらのことから正多面体の最小元素数=4が確定する.

 ところが,デーンの定理の一般化による方法を4次元以上の正多面体に適用すると

  4次元  →最小元素数は2以上

  5次元以上→n+1が平方数のとき最小元素数は2以上,それ以外では3

という煮えきらない結果しか得られない.

 この方法で証明できれは強い意味で証明できたことになり,かっこいいのであるが,牛刀割鶏の感あり.正多面体をどのように分解し接合しても元素数はこれ以上減らせないという最小元素数を求めるのに,細分化する元素数に上限を設けない分解合同は無用の長物ということになろう.

===================================

【2】空間充填との関係

 菱形十二面体と直方体の間の立体蝶番返し,鼈臑型四面体の三角柱への組み換えなどは分解合同の例ですが,それは例外的なケースなのであって,多面体においては体積が等しくても分解合同でないものが存在します.それどころか,一般には同じ体積をもつ他の多面体には組み替えられないのです。

 ところで,分割合同であるための必要条件(Σnδ=0,modπ)と空間充填形ができるための必要条件は,ほぼ同じと考えられます.空間充填形ができるための必要条件は,二面角δが4直角の整数分の1であることです(Σnδ=2π).菱形十二面体,直方体,鼈臑型四面体などが分解合同であるのは二面角δが4直角の整数分の1であるためです.

 空間充填の必要条件はデーン不変量を弱めたものであるので,空間充填との関係から弱い意味での証明の方が,細分化する元素数の上限が正多面体数である場合の最小元素数の決定に適していることが理解されます.正多面体の元素定理が「空間充填」と「分解合同」の中間に位置しているとは,このような意味からです.

 1種類の正多胞体による空間充填形をまとめると,平面充填形3種類(正三角形,正方形,正六角形),3次元空間充填形1種類(立方体),4次元空間充填3種類(8胞体,16胞体,24胞体),5次元以上の空間充填形は1種類(超立方体)ということになります.

 もし,複数使ってよければ,3次元では正四面体と正八面体の組み合わせ,8次元では8次元正単体と8次元正軸体を組み合わせたものだけが空間を充填します.4次元の正5胞体+正16胞体+正600胞体も二面角の和が2πですか,これは空間充填形ではありません.

===================================

【3】強い意味での証明から弱い意味での証明へ

 もちろん,3次元の場合でも,弱い意味での証明は可能です.実際,RT,正四面体,正十二面体,正二十面体で元素数4の例が構成できる根拠を示すと

  正四面体+4RT→立方体

  8RT→正八面体

ですから

  2正四面体+正八面体→2立方体

となって,元素数は1減します.

 4次元の場合も4種類の元素(RP,正5胞体,正600胞体,正120胞体)があればすべての4次元正多胞体を構成できることを示すことができます.

  正16胞体+8RP→正8胞体

  16RP→正16胞体,24RP→正8胞体,192RP→正24胞体

となって,元素数は2減します.こうして

  8×8胞体←→12×16胞体←→24胞体

の解体再編が成り立つのです.

 5次元以上の空間では,直角三角錘RNを2^n-1個を取り除くと正多面体にならず,1種の準正多面体になるので,8次元の場合だけが問題となるのですが,

  17280×正単体+2160×正軸体→超立方体ではない亜正多面体

となって,超立方体には解体再編されません.よって,n(≧5)次元正多面体の元素数は3であることが確定するのです.

===================================