(その7)では,ホテリング・ワイルの定理を紹介したが,ここで補足しておきたい.
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【1】ホテリング・ワイルの定理(管状近傍定理)
パップス・ギュルダンの定理は一般のn+1次元空間内の曲線ついても成立する.すなわち,半径rのn次元円板を考えることによって,
管状r近傍の体積=半径rのn次元円板の体積×曲線の長さ
一般に,Sをn次元空間におけるj次元単体とすると,Sの直交r近傍Srは,Sと半径rのn−r次球の直積としても書くことができる.
voln(Sr)=volj(S)r^n-j×voln-j(Bn-j)
この定理は空間内の図形の周りに肉付けをした体積を求める公式である.たとえば,3次元空間中の半径Rの球面Sの各点で,Sの外側と内側にr(Rに較べて十分小)の幅をつけた体積を考えると,
V=4π(R+r)^3/3−4π(R−r)^3/3
=8πR^2r+8πr^3/3
=(Sの面積×肉厚2r)+2×(半径rの球の体積)
ホテリング・ワイルの式は球面に対してだけでなく,それと同相な曲面すべてに対して成り立つことを主張しているのである.
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【2】オイラー標数
V=(Sの面積×肉厚2r)+2×(半径rの球の体積)
において,2は球面のオイラー標数です.
3次元凸多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,
v−e+f=2 (オイラーの多面体定理)
が成り立ちます.たとえば,正八面体ではf=8,v=6,e=12.切頂20面体ではf=32(正五角形12枚,正六角形20枚),v=60,e=90でオイラーの公式が成り立っていますが,正多面体に限らず任意の凸多面体について常に成立する公式です.
これは3次元立体について,0次元の特性数であるv,1次元の特性数であるe,2次元の特性数であるfの関係を述べたものと解釈され,最も美しい数学の10大定理の1つに挙げられるものです.量(v−e+f)はオイラー標数と呼ばれます.g重ドーナツ面のオイラー標数は2−2gとなります.
オイラー標数は幾何学において重要な概念である位相不変量の草分けであり,オイラーの多面体定理を利用すると,
1)どの面も同数の辺で囲まれている.
2)どの頂点にも同数の辺が集まっている.
という仮定をするだけで,正多角形であるという仮定をまったくせずとも正多面体は5種類しかないことを証明可能になります.
これが実に役立つ公式で,たとえばオイラーの多面体定理で示される制限から,正多面体は5種類しかないとか,すべての面が六角形であるような多面体は存在しないという結論,単一の凸n角形で平面を敷き詰めるものはn≧7では存在しないこと,2次元以上ですべての頂点の次数が6以上となることは不可能であり,必ず次数が5以下の頂点をもつことなどが導き出されます.
オイラーの公式は単純ですが,要はその使い方というわけで,以下,オイラーの多面体公式から導き出される定理をみていくことにします.
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【3】もっと驚くべき定理
フラーレンはダイヤモンドに次ぐくらい硬く,セシウムやルビジウムなどのアルカリ金属を加えると超伝導をおこすという化学的性質をもつ.切頂20面体は頂点が60あり,どの頂点からも3本の手がでている.したがってC60では30本の二重結合(12500のケクレ構造)が描ける.また,異性体は1812種類もあり,そのうちで12個の五角形がすべて離れているものが1つだけあり,それがサッカーボール型のC60である.この形は最も安定であるが,C60,C70以外にも正五角形12枚,正六角形は20枚〜100枚以上の0次元ダイヤモンドが知られている.
球を六角形でタイル貼りすることができないこと以上に驚くべきことがある.もし球を5角形と六角形からなる地図で敷き詰めたならば,サッカーボールのようにちょうど12個の5角形がなければならないというものである.
(Q)五角形と六角形からなる多面体には五角形が常に12個ある.
(A)n本の辺をもつfn枚の面とn本の辺が交わるvn個の頂点をもつ凸多面体について,
F=f3+f4+f5+・・・
2E=3f3+4f4+5f5+・・・
6F−2E≧12
に代入すると
3f3+2f4+f5−f7−2f8−3f9−・・・≧12
地図のように2つの辺に囲まれた領域まで許すことにすると,この数え上げ公式は
4f2+3f3+2f4+f5−f7−2f8−3f9−・・・=12
となり,係数が1ずつ小さくなり,それが0となるf6は式中に現れない.
このことからもf3,f4,f5の少なくとも1つは0でない→多面体には3角形か4角形面か5角形面が少なくとも1つなければならない,同様に,多面体の少なくとも1つの頂点は3次か4次か5次でなければならない→すべての頂点の次数が6以上となることは不可能であり,必ず次数が5以下の頂点をもつことが導き出される.これもオイラーが知っていた結果であるということである.
ここで,
(1)f2=f3=f4=0だとすると,少なくとも12個のf5がなければならないことになる(フラーレン).
(2)多面体の面がすべてf5とf6であるならば,f5=12(切頂二十面体など)
(3)多面体の面がすべてf4とf6であるならば,f4=6(切頂八面体など)
(4)多面体の面がすべてf4,f6,f8であるならば,f4=f8+6(大菱形立方八面体など)
(5)多面体の面がすべてf3とf6であるならば,f3=4(切頂四面体など)
すなわち,球面を六角形と三角形で覆うとしたら,ちょうど4個の三角形が必要である.一般に,球面を六角形とn角形で覆うとしたら,ちょうどk=12/(6−n)個のn角形が必要である.n=3,4,5のとき,
k=12/(6−n)=4,6,12
であるが,これは正多面体の面数と同じである.これらの結果は極めて重要で,四色定理の証明の中核をなしている.
[補]もし五角形x枚と六角形y枚の2種類の面のみをもつ頂点の次数が3の凸多面体に限定して考えるならば
面:x+y
辺:(5x+6y)/2
頂点:(5x+6y)/3
v−e+f=2 (オイラーの多面体定理)に代入すると,x/6=2よりx=12となる.
[補]もしm角形x枚とn角形y枚の2種類の面のみをもつ頂点の次数がkで等しい頂点数24の準正多面体に限定して考えるならば
面:x+y
辺:(mx+ny)/2
頂点:(mx+ny)/k=24
v−e+f=2 (オイラーの多面体定理)に代入すると,x+y=12k−22となる.
k=3 → 切頂立方体,切頂八面体,正12角柱
k=4 → 小菱形立方八面体,ミラーの立体,正12反角柱
k=5 → ねじれ立方体
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