■デーン不変量と二面角の幾何学(その34)

 (その31)において,二胞角が直角と有理比になるかどうかでなく,2πの整数分の1になるかどうかで元素数の下限を決定するほうが簡単かつ有用であることがわかった.すなわち,二面角との直積

      二胞角   二面角

5胞体    A     C

8胞体    B     D

16胞体   B     C

24胞体   B     C

120胞体  B     E

600胞体  A     C

をとるのではなく,二胞角が2πの整数分の1になるかどうかでもってラベルすると

      二胞角

5胞体    A

8胞体    B

16胞体   B

24胞体   B

120胞体  C

600胞体  D

の4群ということになる(元素数4以上).

 それによると3次元では4群,5次元では5群,8次元では2群であるから,8次元における正多面体の元素数は2以上であるが,実際に2元素で構成できるかどうかが遺された問題になった.

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【1】8次元におけるkissing number

 8次元になると面心立方格子に十分な隙間ができるので,112個の接触点

1/√2(0,・・・,±1,0,・・・,±1,0・・・)   (±1の個数は2つ)

と128個の隙間の点

1/√8(±1,±1,±1,±1,±1,±1,±1,±1)   (+の個数は偶数)

に同じ大きさの球が詰め込み可能になります.

 E8格子は接触数240を与えるのですが,τ8の240個の点はE8型の単純リー代数の240個のルート格子で実現されます.この隙間は,9個の整数に対して法3で合同となるので,

  x1+x2+x3+x4+x5+x6+x7+x8+x9=0

であって,E8では9個の球によって完全に充填した構造となっています.

 以下では,

  [参]一松信「現代に活かす初等幾何学入門」岩波書店

の助けを借りて,n=8の場合について最密充填を与える格子の構成法を略述します.

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【2】ケイリー整数とE8格子

 八元数Σajejにおいて,係数aj(j=0~7)が

  1)整数値をとるもの

  2)半整数値の奇数倍をとるもの

  3)4個が整数値,4個が半整数値の奇数倍をとるもの

を加えて,「ケイリーの整数」と呼びます.

 ただし,3)において整数である番号は(i,j,k)7組に0(実数)を加えた集合および(0〜7)に対するその補集合の14組に限ります.

 このような点をすべてとると,8次元空間内で隣り合う2点間の距離がすべて1の格子ができあがります.原点に隣接する点は240個あり,それらと原点を結ぶベクトルが例外型リー環のE8ルート系を表すので,この格子をE8格子といいます.

 E8格子にはほかにもいくつかの構成法があり,ここではケイリー整数との関連で説明しましたが,その配列は本質的にはこの形しかありません.S^7の上の240個の点は直交変換で互いに移りうる点の組を同じものとみなすと一意なのです.

 そして,8次元空間において,2個の正軸体(正8面体の拡張)と1個の正単体(正4面体の拡張)を組み合わせると空間充填形ができるのですが,ケイリー整数の作る格子がその具体形になっています.

 なお,E8格子において,原点からの距離が√nである格子点の個数は

  240σ3(n)

(ここで,σ3(n)はnの約数の3乗の和)と表せることが知られています.すなわち,

  n=1 → 240・1^3=240個

  n=2 → 240・(1^3+2^3)=2160個

  n=3 → 240・(1^3+3^3)=6720個

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【3】ハミング符号系

 E8格子の構成法は他にもありますが,ここでは24次元リーチ格子への準備として,E8格子の構成法に「符号理論」としての解釈を与えます.符号理論の基礎はまさしく現代数学であり,いまでは歩きながら携帯電話するにしても,現代数学の恩恵を受けているのです.

 E8格子の格子点のうち,半整数の奇数倍を1,偶数倍を0で表すと,

   b1b2b3b4b5b6b7b8 b1b2b3b4b5b6b7b8

   00000000(0)     11111111(F)

   00001111(1)     11110000(E)

   00110011(2)     11001100(D)

   00111100(3)     11000011(C)

   01010101(4)     10101010(B)

   01011010(5)     10100101(A)

   01100110(6)     10011001(9)

   01101001(7)     10010110(8)

の16パターンになります.右列は左列のビットを反転させたものです.

 左からb1,b2,・・・とすると,b1b2b3b5の4ビットを2進数として読むと16進数(0〜F)を表すことができます.そして,互いに少なくとも4ビット異なりますから,4ビットの符号に4ビットの検査ビットをつけた8ビット符号系と解釈することができます.

 このうちb4をパリティビット(1が偶数個になるように付加したビット)とみなすことができるのですが,これがハミング符号系の特別な場合で,一般に1ビットの誤りが完全に訂正できる符号系はm個の情報ビットと2^m−m−1個の検査ビットをもつ符号系です.

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