三角形(その3)→平行四辺形(その4)→任意の四角形(その5)と進んできたが,今回は台形の番である.
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【1】台形の面積公式から角錐台へ
台形の面積公式は,(上底+下底)×高さ÷2
(a+b)h/2
であるが,古代エジプト人たちは下底が1辺の長さaの正方形,上底が1辺の長さbの正方形,高さhの四角錐台の体積が
(a^2+ab+b^2)h/3
で求められることを知っていたようである.
また,魏の時代に書かれた劉徽の「九章算術」の体積計算では棊(き)と呼ばれる4種類のブロックを利用して,角錐や角錐台の体積公式を得ている.4種類のブロックとは立方体,塹堵(ぜんと:1/2立方体),陽馬(1/3立方体),鼈臑(べつどう:1/6立方体)である.鼈臑とはすっぽんのすね(前足の骨)の意であるそうだ.
たとえば,正四角台は中央にある立方体,側面にある4つの塹堵,各隅に1つずつある4つの陽馬に細分される.それらをうまく組み換えることによって,3個の三角錐(V=a^2h/3,abh/3,b^2h/3)に転化させることができる.このことは角錐台の体積公式が
(a^2+ab+b^2)h/3
となることを示している直接的な証明法である.
劉徽の「九章算術」では,台形の面積公式
(a+b)h/2
が台形を2個の三角形(S=ah/2,bh/2)に転化させて得られるのと同様のアイディアで角錐台の体積を求めているのである.すなわち,「九章算術」の立方体,塹堵(ぜんと),陽馬,鼈臑(べつどう)はピースを並べ替えて等積変形により立体の体積を求積するもので,同じく中国生まれの「タングラム」の立体版と考えられる.
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【2】台形の面積公式から角柱へ
本年6月に開催された「形の科学会」において,建築家の阿竹克人さんが,台形の上底・下底ではなく側辺に注目されて,台形の面積は側辺の投影面積hと側辺の重心の平均移動距離(a+b)/2の積として求められるという面積公式を発表しておられた.
平面は2本の平行線で決定されるが,空間は3本の平行線で決定されるから,平行でない2平面で切り取った三角柱の体積は,投影面積をSとすると側面の重心の平均移動距離は(a+b+c)/3であるから
S×(a+b+c)/3
4次元では
V×(a+b+c+d)/4
になるというものである.
これについてはコラム「学会見聞録(形の科学会)」にも書いたが,もちろん,パップス・ギュルダンの定理の特別な場合に相当する.
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【3】パップス・ギュルダンの定理
半径aと半径b(b<a)の同心円に挟まれた円環状部分の面積は
πa^2−πb^2
で与えられるが,この図形は2次元の円に幅をもたせたものと考えることができる.
そこで,帯の幅(a−b)に重心(原点からの距離:(a+b)/2)が描く円周長2π(a+b)/2を乗ずると
円周長×幅=2π(a+b)/2×(a−b)=πa^2−πb^2
となって同じ値が得られる.
円を円と交わらない軸を中心にして3次元空間内で回転させるとトーラス(円環面)が得られる. 半径bの円を3次元空間内で半径aで回転させたトーラスの場合,
表面積=円周長2πb×円周長2πa=4π^2ab
体積=断面積πb^2×円周長2πa=2π^2ab^2
で表すことができる.すなわち,体積・表面積とも太さと長さの積で表せるというわけである.
円周率が2つ入っているが,この意味はトーラス面は環状に並べられた円であることにほかならない.トーラスの体積・表面積の解答を自力で見つけて感動を覚え,それが次の興味に繋がったという経験をお持ちの読者も少なくないだろう.トーラスを同心円の積層であることを自力でみつける姿勢は必要であろうし,わかるということの喜びを体験することができるのである.
(第1定理)回転体の体積は元になる図形の面積とその図形の重心が移動した距離の積になる.
(第2定理)表面積は図形の周となっている曲線の重心の移動距離とその図形の周長との積になる.
これらは円だけでなくあらゆる回転体について成り立つ回転体の体積と表面積に関する定理であり,4世紀前半に精力的に活動した数学者パップスにちなんで「パップスの定理」と呼ばれている.
(Q1)三角形の重心は底辺から高さの1/3のところにあるが,それでは半円の重心はどこにあるのだろうか?
(A1)パップスの第1定理を逆に使って求めてみよう.直径を軸として半円を回転させると球になる.アルキメデスによれば球の体積は
4/3πr^3
一方,パップスによればこの体積は半円の面積1/2πr^2と半円が回転したときの重心の移動距離2πdの積に等しい(重心と円の中心との距離をdとする).したがって,
d=4r/3π=0.42r
(Q2)半径rの半円形をした針金の重心は?
(A2)パップスの第2定理より,重心の移動距離2πdと半円の長さπrの積は球の表面積4πr^2は等しくなる.したがって
d=2r/π=0.64r
これらの問題は積分を使っても解くことができるが,それよりもパップスの定理を使った方が簡単であろう.また,パップスの定理は円が曲線に沿って移動するような軌跡問題などにも応用することができる.
[補]この回転体の体積や表面積についての定理は古代ギリシアの数学者パップス(4世紀前半)が言及し,後になってスイスの数学者ギュルダンによって証明が試みられました.そのため今日ではパップス・ギュルダンの定理と呼ばれています.
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[補]三角形についてのパップスの中点定理
パップスは体積と重心に関するパップス・ギュルダンの定理,三角形についてのパップスの中線定理,射影幾何学におけるパップスの定理にその名を残しています.
△ABCにおいて,辺BC上に中点Mが与えられている.このとき,
AB^2+AC^2=2(AM^2+BM^2)
が成り立つ.
3辺の長さをa,b,c,AM=xで表すと,
2(x^2+(a/2)^2)=b^2+c^2
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【4】ホテリング・ワイルの定理(管状近傍定理)
パップス・ギュルダンの定理は一般のn+1次元空間内の曲線ついても成立する.すなわち,半径rのn次元円板を考えることによって,
管状r近傍の体積=半径rのn次元円板の体積×曲線の長さ
一般に,Sをn次元空間におけるj次元単体とすると,Sの直交r近傍Srは,Sと半径rのn−r次球の直積としても書くことができる.
voln(Sr)=volj(S)r^n-j×voln-j(Bn-j)
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