■初等幾何の楽しみ(その3)

 本コラムでは,中川宏さんの木工多面体を追跡レポートしてきたのであるが,その間,中川さんは木工多面体作家として着実に成長されたと思う.今回のコラムでは,中川さんがこの夏考察した初等幾何の定理についてまとめてみたい.

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【1】はじめに三角形ありき

 三角形の内角の2等分線は1点で交わる(内心).

 それに対して,三角形の内角の3等分線の交点は正三角形になる.

 これをモーレイの三角形と呼ぶが,モーレイの三角形が1899年,わずか100年前に発見されたというのは驚きである.

 三角形のような簡単な図形が無数に未知の性質をもつというのはまことに不思議なことである.そこで,幾何学の基本形である三角形の性質について,もう一度見直してみたい.

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 三角形の5心とは,内心・傍心・重心・外心・垂心をさすが,これらは古くから知られていて,幾何学のバイブルと呼ばれるユークリッド「原論」にもその性質がいろいろ述べられている.三角形の内心は3辺への距離のうちで一番小さいものが最大になる点(マックスミニ点),外心は3頂点に至る最大距離が最小となる点(ミニマックス点),垂心は三角形に内接する三角形の周長が最小になる点(ファニャーノの問題,1775年),重心は3頂点に至る距離の2乗の和が最小となる点である.

 平面図形の中で3本またはそれ以上の直線が1点で交わっていることを主張する定理が共点定理であるが,たとえば,三角形の各頂点から対辺に引いた3つの中線や垂線は1点に会するなど,三角形の5心の存在は共点定理の例となっている.

 ちなみに,3頂点に至る距離の和が最小となる点をフェルマー点(シュタイナー点)という.この問題は17世紀のフランスの数学者フェルマーがイタリアの物理学者トリチェリ,数学者カヴァリエリに出題したものとして有名な問題である.

 ここで,読者諸賢に問題を提出したい.

 [Q]モーレイの三角形の重心はもとの三角形の何と一致するのだろうか?

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【2】角から辺へ,2等分点ら3等分へ

 角の次は辺であるが,三角形の各頂点から対辺に引いた3つの中線は1点に会する(重心).

 2等分の次は3等分である.中点は辺の2等分点であるが,三角形の各頂点から対辺の3等分点に引いた線の交点は三角形になる.この三角形を仮に「縮小三角形」と呼ぶことにする.縮小三角形の面積は基の三角形の面積の1/7になるというのもよくある課題である.

 正三角形の縮小三角形は正三角形であるが,中川宏さんの研究は任意の三角形の縮小三角形がもとの三角形と相似になる場合の問題である.

 [Q]縮小三角形がもとの三角形と相似になることがあるか? あるとすればどのような場合か?

 かなり面白く,数セミ・ノート欄に投稿してもよいような内容であるが,中川さん自身が部分的な解答を与え,一松信先生が「重心座標」を用いて完全に解いたことは,コラム「縮小三角形の問題」で紹介したとおりである.

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 次に辺の2等分点同士を結んでみると,どんな三角形でも各辺の中点をそれぞれ結んでやれば4等分することができることがわかるだろう(∵中点連結定理).

 一般にどんな三角形も4,9,16,・・・,n^2個に合同分割できるが,直角をはさむ二辺の比が1:nの直角三角形はn^2+1個に合同分割できる.

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 三角形の各辺の3等分点を対頂点と結ぶと,中央部にできる小さな三角形はもとの三角形の1/7になるが,三角形の各辺の3等分点同士を結ぶとどうなるか? 任意の三角形の各辺の3等分点を下図のように結ぶと,三角形は3等分されることがわかる.

 一般に与えられた三角形の各辺を同じ倍率kで伸縮した位置に点をとって作った三角形の面積は,もとの三角形の面積の

  M=3k^2−3k+1=3(k−1/2)^2+1/4

倍になるから,

  k=1/3 → M=1/3  (3等分)

  k=1/2 → M=1/4  (4等分)

  k=2/3 → M=1/3  (3等分)

  k=1   → M=1

  k=2   → M=7    (7等分)

となる.

 0<k<1のときはもとの三角形より小さくなり,k=1/2のとき最小値1/4をとる.k>1のときはもとの三角形より大きくなり,k=2のときには7倍になるが,与えられた三角形の各辺を逆方向に延ばすと大きな三角形の対辺を1:2に内分する点と交わるのである.

 また,下図のように3等分点を結んでダビデの星を作ってみると,ダビデの星では互いの辺を3等分し,面積はもとの三角形の面積の4/9に等しい.また,ダビデの星が重なった部分の6角形の面積はもとの三角形の面積の2/9,ダビデの星の面積の1/2に等しい.

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