■切稜立方体の10年(中川 宏)

 このコーナーでは中川宏さん製作の木工多面体を取り上げてきましたが,氏の木工の原点にあるのは「切稜立方体」と「正十二面体」です.また,一松信先生の傘寿のお祝いにするために,中川さんのオリジナリティーに富むお仕事を集大成した中川宏「多面体木工」(非売品,NPO法人・科学協力学際センター)が3つ目の至宝です.

 中川さんの切稜立方体は外接球と内接球を併せもつ特別な双心多面体で,分子模型の積み木工作などに用いることができるのですが,この度,切稜立方体パズルが商品化されることになりました.中川宏の「4つ目の至宝」というわけです.

 そこで,宣伝をかねて中川さん自らに寄稿していただくことになりました.是非,買って試して,他の人たちにも薦めて頂きたいと存じます.   (佐藤郁郎)

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 ふと最近,私(中川宏)が初めて切稜立方体を作ってから今年で10年目だということに気づきました.最初柱の切れ端の角を45度に切り落としてみたらどうなるだろう?という軽い遊び心からの偶然の産物でした.

 そして仕事の合間の休憩時間の積み木遊びから生まれたサイドランプが私のその後を決めることになりました.

 切稜立方体と言うのは私の造語ですが,名もない18面体が切頂8面体というアルキメデス立体を構成することができるという不思議にとり憑かれたことが,佐藤郁郎先生と出会うきっかけでした.佐藤先生との交流の成果は「多面体木工」にまとめられました.そこでは主に多面体製作技法として,立方体の切頂にたいする対概念として切稜を提示したのですが,自然科学とりわけ結晶学との関連は予感を滲ませながらもほとんどわかっていませんでした.

 ところが今年になって,すばらしい結晶学の成果に出会うことが出来ました.図書館でたまたま見つけた

  「したしむ固体構造論」(志村史夫著)

によりますと,純粋な金属の超微粒子の結晶形は,

 原子レベルで体心立方格子の結晶構造を持つ元素は,切稜立方体

 原子レベルで面心立方格子の結晶構造を持つ元素は,切頂立方体

という明瞭な対比を示すのだそうです.

 こうして,名前すらなかった偶然の多面体「切稜立方体」は,bcc金属の超微粒子が普遍的にとる結晶形として確固たる位置を占めることが出来たのです.石の上にも三年・切稜立方体の上にも十年,とでもいった心境です.

 そこで多面体愛好家だけでなく,広く一般のみなさんにも切稜立方体に親しんでもらいたいとの願いもこめて,切稜立方体の多彩な造形力を最大限に引き出したパズルを4種類同時に発売することになりました.

 本年6月29日のMath and Artセミナーで上京した折,運良く秋山仁先生にこのパズルを見ていただくことが出来,下のようなピラミッド形は「平方数の和」の公式の発見的学習教材にも使えることを見出していただきました.

 8月29日から,パズルショップ・トリト

  http://torito.jp/ 

  〒110-0016 東京都台東区台東2-7-3 瀬戸ビル5F

  info@torito.jp  TEL 03-5817-3781   FAX 03-3835-3722

にて取り扱っていただきます.ご愛顧のほどお願いいたします.なお発売初日のみ,トリト10年セール会場:台東区民会館 第4会議室(東京都台東区花川戸2-6-5)となります.

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