■ウォルステンホルムの定理

 「ある有名な数論の定理」(その4),(その6)ではウォルステンホルムの定理

 「pが2,3以外の素数ならば有限調和級数(既約分数)

  1+1/2+1/3+・・・+1/(p−1)

の分子はp^2で割り切れる.たとえば,p=5のとき,この分数は25/12となり,その分子はp^2で割り切れる.」

を紹介した.

 この問題は素数pによる整除性ではなく,素数の平方p^2による整除性なのでかなり難しい問題である.そこで,今回コラムでは注釈を加えて再掲する.

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【1】ウォルステンホルムの定理(1862年)

(Q)p>3が素数ならば,既約分数

  1+1/2+1/3+・・・+1/(p−1)

の分子はp^2で割り切れることを証明せよ(1862年).

(A)1+1/2+1/3+・・・+1/(p−1)を通分すれば,分母は(p−1)!である.ウィルソンの定理より

  (p−1)!=−1  (mod p)

であるから分母はpで割り切れない.したがって,

  S=(p−1)!(1+1/2+1/3+・・・+1/(p−1))

がp^2で割り切れることを証明すればよいことになる.

 Sは1,2,・・・p−1からp−2個とったあらゆる組合せの積の和である.そこで

  F=(x−1)(x−2)・・・(x−p+1)

   =x^p-1−A1x^p-2+・・・−Ap-2x+Ap-1

と書けば,根と係数の関係より

  Ap-1=(p−1)!

  Ap-2=(p−1)!(1+1/2+1/3+・・・+1/(p−1))

 x=pとおけば

  (p−1)!=p^p-1−A1x^p-2+・・・−Ap-2p+Ap-1

  p^p-2−A1p^p-3+・・・+Ap-3p−Ap-2=0

 S=Ap-2であるから,ここでp|A1,p|A2,・・・,p|Ap-2がいえれば,p>3のときp^2|Ap-2.2項係数pCkを(p,k)と書くことにすると,

  p|(p,k)   (k:1~p-1)

であるから,A1〜Ap-1を2項係数で表すことができればp|A1,p|A2,・・・,p|Ap-2がいえたことになる.

  xF=x(x−1)(x−2)・・・(x−p+1)

    =x^p−A1x^p-1+・・・−Ap-2x^2+Ap-1x

xをx−1で置き換えれば

  (x−1)^p−A1(x−1)^p-1+・・・−Ap-2(x−1)^2+Ap-1(x−1)

 =(x−1)(x−2)・・・(x−p+1)(x−p)

 =(x−p)(x^p−A1x^p-1+・・・−Ap-2x^2+Ap-1)

 ここでx^kの係数を比べると

  A1=(p,2),

  2A2=(p,3)+(p-1,2)A1,

  3A3=(p,4)+(p-1,3)A1+(p-2,2)A2,

  (p−1)Ap-1=1+A1+A2+・・・+Ap-2

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【2】ウォルステンホルムの定理の別証明

 (p−1)!とpは互いに素であるから

  S=(p−1)!(1+1/2+1/3+・・・+1/(p−1))

がp^2で割り切れることと

  1+1/2+1/3+・・・+1/(p−1)=0  (mod p^2)

は同値である.

 mod算術を扱う場合,1/2のような数はある整数と同値である.たとえば,

  1/2=6/2=3  (mod 5)

  1+1/2+1/3+1/4=1+13+17+19=0  (mod 25)

 素数pによる整除性ではなく,素数の平方p^2による整除性なのでかなり難しい問題である.そこで,素数による整除性の問題に帰着させてより解きやすいものにしたい.そこでまず

  1+1/2+1/3+・・・+1/(p−1)=0  (mod p)

を証明するしよう.

  1+1/2+1/3+1/4=1+3+2+4=0  (mod 5)

であるが,

  4=−1,3=−2  (mod 5)

を使えば,

  1+1/2+1/3+1/4=1−2+2−1=0  (mod 5)

同様に,

  p−1=−1,p−2=−2,・・・  (mod p)

であるから

  1+1/2+1/3+・・・+1/(p−1)=0  (mod p)

を証明することができる.

 次に,1/1と1/(p−1),1/2と1/(p−2),・・・をペアに組ませると

  1+1/2+1/3+・・・+1/(p−1)  (mod p^2)

 =1+1/(p−1)+1/2+1/(p−1)+・・・+1/(p−1)/2+1/((p+1)/2)

 =p(1/(p−1)+1/2(p−2)+・・・+1/(p−1)/2+(p+1)/2)  (mod p^2)

 したがって,

 1/(p−1)+1/2(p−2)+・・・+1/(p−1)/2+(p+1)/2=0  (mod p)

  p−1=−1,p−2=−2,・・・  (mod p)

であるから,

 1/1^2+/2^2+1/3^2+・・・+1/(p−1)^2=0  (mod p)

が成り立つことをを示しさえすればよい.

 1/1^2+/2^2+1/3^2+・・・+1/(p−1)^2=1^2+2^2+3^2+・・・+(p−1)^2=(p−1)p(2p−1)/6=0  (mod p)

となって証明了.

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【3】ウォルステンホルムの定理の拡張

(Q)p>3が素数ならば

  S=((p−1)!)^2(1+1/2^2+1/3^2+・・・+1/(p−1)^2)

がpで割り切れることを証明せよ.

 pが2,3以外の素数ならば有限調和級数

  1+1/2^2+1/3^2+・・・+1/(p−1)^2

の分子はpで割り切れる,したがってpが素数のときに限り分子はpで割り切れるというものです.

(A)

  1+1/2^2+1/3^2+・・・+1/(p−1)^2

の分子は

  (Ap-2)^2−2(p−1)!Ap-3

であり,pで割り切れる.

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 同様に

 「pが素数でp>5であるときに限り,

  1+1/2^3+1/3^3+・・・+1/(p−1)^3

の分子はp^2で割り切れる」

 「pが素数でp>7であるときに限り,

  1+1/2^4+1/3^4+・・・+1/(p−1)^4

の分子はpで割り切れる」

 1819年,バベッジは

  (2p−1,p−1)=1   (mod p^2)

に気づきましたが,1862年,ウォルステンホルムは

  (2p−1,p−1)=1   (mod p^3)

を証明したことになります.

 一般に,pを素数,kをp−1で割り切れない正の整数とするとき,

  1+1/2^k+1/3^k+・・・+1/(p−1)^k

の分子はpで割り切れる

 =1+2^k+3^k+・・・+(p−1)^k

がpで割り切れることが示されています.

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【4】ウォルステンホルム素数

  1+1/2+1/3+・・・+1/(p−1)

の分子をウォルステンホルム数と呼びますが,もし,

  (2p−1,p−1)=1   (mod p^4)

が成り立つとき,pをウォルステンホルム素数と呼びます.ウォルステンホルム素数はいまのことろ16843と2124679は発見されているだけだそうです.

 なお,

  1+1/2^2+1/3^2+・・・+1/(n−1)^2

の分子であるウォルステンホルム数の因数分解の結果は三島久典氏のHP

  http://www.asahi-net.or.jp/-KC2H-MSM/mathland/matha1/jindex.htm

に掲載されているそうです.

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