線分,三角形,四面体(三角錐)はそれぞれ最も簡単な1次元図形,2次元図形,3次元図形であるが,次元数nより1つ多い数の頂点によって作られる高次元図形を単体(シンプレックス)と呼ぶ.線分は一次元単体,三角形は二次元単体,三角錐は三次元単体とも呼ばれる所以である.
n次元正単体の場合,
頂点数: n+1,
稜数: (n+1)n/2,
三角形数:n(n^2−1)/6
である.すなわち,各頂点からはn本の稜がでて,すべての頂点を結ぶと単体ができあがることになる.各頂点のまわりにはn(n−1)/2個の三角形,また,各稜のまわりにはn−1個の三角形が集まっている.
今回のコラムでは,n次元正単体の二面角(注:二胞角というべきであるが3次元の場合の用語を転用)を2つの方法で求めることにする.なお,エレガント(elegant)でない力まかせの表現はエレファント(elephant)と呼ばれる.これはエレガントとエレファントをかけたダジャレであるが,数学の表記法は無駄を省いて短く巧みに簡潔にをよしとしていて,数学形式のすばらしいところはエレファントな表現を排除できるところにある.
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【1】エレファントな解法
n次元正単体の頂点の座標を
(1,0,・・・,0)
(0,1,・・・,0)
・・・・・・・・・・・
(0,0,・・・,1)
としよう.これらの頂点間距離は√2である.
これらの座標が与えられたとき,残りの1点の座標は
(x,x,・・・,x)
とすることができる.他の頂点との距離は√2であるから,
(x−1)^2+(n−1)x^2=2
すなわち,
nx^2−2x−1=0
を満たさなければならないことより,
x={1−√(1+n)}/n
が得られる.
n+1個の頂点:
V1(1,0,・・・,0)
V2(0,1,・・・,0)
・・・・・・・・・・・
Vn(0,0,・・・,1)
Vn+1(x,x,・・・,x)
の中心座標(体心)は
((x+1)/(n+1),・・・,(x+1)/(n+1))
底面
(1,0,・・・,0)
(0,1,・・・,0)
・・・・・・・・・・・
(0,0,・・・,1)
の重心(面心)は
(1/n,1/n,・・・,1/n)
それに隣接する面
(x,x,・・・,x)
(0,1,・・・,0)
・・・・・・・・・・・
(0,0,・・・,1)
の重心(面心)は
(x/n,(x+1)/n,・・・,(x+1)/n)
であるから,2つの連接する面心ベクトルは
(1/n−(x+1)/(n+1),1/n−(x+1)/(n+1),・・・,1/n−(x+1)/(n+1))
(x/n−(x+1)/(n+1),(x+1)/n−(x+1)/(n+1),・・・,(x+1)/n−(x+1)/(n+1))
より,面心間距離は
cosθ=−1/n
二面角はその補角であるから
cosδ=1/n
と計算される.n=2以外のときは4直角の整数分の1にならないが,これは正三角形による平面充填形(3,6)に他ならない.
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【2】エレガントな解法
n次元正単体の境界多面体はn−1次元正単体,n+1次元正単体の境界多面体はn次元正単体である.正単体をn次元空間内で作ると一般に座標が無理数になる.そこで,n次元正単体の代わりに,全体を1次元あげてn+1次元正単体の境界多面体をとることにする.
境界多面体はn+1次元空間内のn+1個の単位点(1つだけ座標が1で他が0である点)
V1(1,0,・・・,0,0)
V2(0,1,・・・,0,0)
・・・・・・・・・・・・・・
Vn+1(0,0,・・・,0,1)
から生成される.これらの頂点間距離は√2である.また,中心座標は
c(S)=(1/(n+1),・・・,1/(n+1))
また,隣接する2つのn−1次元胞A,Bは
A={V1,V2,・・・,Vn}
B={V2,・・・,Vn,Vn+1}
から生成されるものをとると,それぞれの中心は
c(A)=(1/n,1/n,・・・,1/n,0)
c(B)=(0,1/n,・・・,1/n,1/n)
c(S)からc(A)に向かうベクトルをu,c(S)からc(B)に向かうベクトルをvとすると,
1/n−1/(n+1)=1/n(n+1)
より,
u=(1/n(n+1),・・・,1/n(n+1),−1/(n+1))
v=(−1/(n+1),1/n(n+1),・・・,1/n(n+1))
したがって,面心間距離(角度)は
cosθ=u・v/|u||v|=−1/n
二面角はその補角であるから
cosδ=1/n
と計算される.
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