算術平均A=(a+b)/2
幾何平均G=(ab)^(1/2)
調和平均H=2/(1/x+1/y)=2xy/(x+y)
ユークリッド平均E=((a^2+b^2)/2)^(1/2) →
と定義する.
算術平均・幾何平均不等式
算術平均≧幾何平均
が証明されるが,調和平均は逆数の算術平均の逆数であるから,算術平均・幾何平均不等式においてa→1/a,b→1/b,c→1/c,・・・と置き換えれば
幾何平均≧調和平均
の不等式を間接的に導くことができる.すなわち
算術平均≧幾何平均≧調和平均
が成立する.さらに,
ユークリッド平均≧算術平均≧幾何平均≧調和平均
これらは平均の重要な一般化であるが,さらなる平均の応用として算術幾何平均がある.
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【1】算術幾何平均
aがx^2=0の解ならばa=2/aが成り立ちます.aがいくらか不正確,たとえば過小評価であるならば,2/aは過大評価となります.過小評価と過大評価の中間(算術平均)はaと2/aのいずれよりもよい評価となります.
かくして算術平均:
an+1=1/2(an+2/an)
によって定義される数列は√(2)に収束することになります.この場合,2の平方根をニュートン法x:=x-f(x)/f'(x)で求めるのと同じことになります.ニュートン法の幾何学的意味は「初期値x0における関数の勾配を求めて,接線とx軸の交点を求める.この点において,同様の作業を行うとxは順次解に近づいていく.」と解釈されます.
次に,算術平均に加えて,幾何平均も考えることにします.
「2数a0,b0をとり,それらの算術平均a1=(a0+b0)/2,幾何平均b1=√a0b0を計算する.次に,a1,b1の算術平均と幾何平均を計算し,a2=(a1+b1)/2,b2=√a1b1とする.すると,anとbnは急速に同じ極限M(a,b)に到達する.」
(証明)
a0>b0とする.
a1=(a0+b0)/2<(a0+a0)/2=a0
b1=√a0b0>√b0b0=b0
a1−b1=(a0+b0)/2−√a0b0=1/2(√a0−√b0)>0
帰納的に
a0>・・・>an >an+1>bn+1>bn >・・・>b0
より数列{an},{bn}は単調数列となり,同じ値に収束することがわかる.
このように,1組の数(a,b)に対して,算術および幾何平均を考えて,
(a,b):=((a+b)/2,√(ab))
と繰り返す算法を算術幾何平均法と呼びます.
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【2】一般化
xn=f(xn-1,yn-1)
yn=g(xn-1,yn-1)
を繰り返すとき,数列xn,ynが同じ極限M(x,y)に収束し,極限関数M(x,y)が具体的に定められるのはどのような場合でしょうか?
[1]収束性
答えを先にいうと,f,gが比較可能な平均という性質をもつとき,同じ値に収束することが証明されます.
(1)平均の定義
x<yならば,x<f(x,y)<y
λ>0ならば,f(λx,λy)=λf(x,y)
(2)比較可能関数の定義
2つの関数の間に不等式f(x,y)≦g(x,y)が成り立つ.
この意味でH,G,A,Eは平均の条件を満たし,不等式H<G<A<Eが成り立ちます.
[2]極限関数
極限関数M(x,y)は初期値(x0,y0)の如何に関わらず,
M(x,y)=M(x0,y0)
したがって
M(x,y)=M(f(x,y),g(x,y))
を満たします(不変性).
(例1)f=2xy/(x+y)=H,f=(x+y)/2=A
とおくと,x0y0=x1y2=・・・という不変性を示す.この極限関数は
M(x,y)=(xy)^(1/2)=G
に急速に収束する.→算術調和平均
(例2)f=G,g=Aならば極限M(a,b)は楕円積分
M(a,b)=1/(2/π∫(0,π/2)dφ/√{(acosφ)^2+(bsinφ)^2})
により表すことができる(ガウス).→算術幾何平均
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【3】バリエーション
(1)2数a0,b0をとり,a1=(a0+b0)/2,b1=√a1b0=√b0(a0+b0)/2を計算する.次に,a2=(a1+b1)/2,b2=√a2b1とする.bnを計算するときan-1でなく最新のanを使っていることに注意されたい.
すると,anとbnは急速に同じ極限M(a,b)に到達する.このとき,極限関数はM(a,b)=
(b^2−a^2)^(1/2)/arccos(a/b) (0≦a<bのとき)
a (a=bのとき)
(a^2−b^2)^(1/2)/arccosh(a/b) (b<aのとき)
で与えられる(パッフ).
(2)0≦a0<b0なる2数a0,b0をとり,a1={a0(a0+b0)/2}^(1/2),b1={b0(a0+b0)/2}^(1/2)を計算する.これを繰り返すとanとbnは急速に同じ極限M(a,b)に到達する(カールソン).
M(a,b)={(b^2−a^2)/2log(a/b)}^(1/2)
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【4】算術調和平均と幾何調和平均
1組の数(a,b)に対して算術および幾何平均を考えて,
a←(a+b)/2
b←√ab
と繰り返す算法を算術幾何平均法と呼ぶ.この極限M(a,b)は楕円積分
M(a,b)=1/(2/π∫(0,π/2)dφ/√{(acosφ)^2+(bsinφ)^2})
により表すことができる(ガウス).
[2]で述べたように
a←(a+b)/2
b←2ab/(a+b)
は共通な極限値M(a,b)=√abに収束する.この極限値を算術調和平均という.
それに対して
a←√ab
b←2ab/(a+b)
も共通な極限値M(a,b)に収束する.この極限値を幾何調和平均という.
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【5】おまけ
[1]n→∞のとき,{(n!)^(1/n)}/n→1/e
これを一般化すると
{Π(a+ν)^(1/n)}/n→1/e
[2]等差数列{a+(ν−1)d}のn個の数の算術平均をAn,幾何平均をGnで表せば,n→∞のとき,An/Gn→e/2
[3]n→∞のとき,{Σ1/√n}/√n→2
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