正四面体の展開図は正三角形,平行四辺形の2種類あり,どちらも平面充填図形である.これらは正四面体を辺に沿って切ったときの展開図である.これだけでも2種類の展開図ができるのだが,たとえば紙でできた中空の正四面体を辺に沿ってではなく,ハサミで好き勝手に切って平面に展開することを考えてみる.
このときハサミがすべての頂点を通らなければ平面に広げることはできないからその条件だけは満たさなければならないが,これにより展開図の種類は無限になる.そして,この展開図のコピーをジグソーパズルのようにくぼんだ所に出っ張ったところをピッタリはめ込み,平面を隙間もなく重なりもなく敷き詰めることができる.
正四面体は好き勝手に切っても,辺に沿って切っても平面充填図形になるのである.その意味では平面充填図形製造器といえる.正四面体に限らず,等面四面体(たとえば,辺の長さが√3:√3:2の三角形4枚からなる四面体)はこのような性質をもっている.
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【1】秋山のタイル定理
展開図のコピーをジグソーパズルのようにくぼんだ所に出っ張ったところをピッタリはめ込み,平面を隙間もなく重なりもなく敷き詰めることができるとき平面充填図形という.どのような条件を満たすとき,この平面展開図は平面充填可能な図形になるのだろうか?
[1]正四面体や等面四面体は好き勝手に切っても,辺に沿って切っても平面充填図形になる.
[2]立方体と正八面体は辺に沿った展開図はすべて平面充填図形になるが,勝手に切り込みを入れた展開図は平面充填図形にならない.
[3]正十二面体は正五角形でできているからたとえ辺に沿って切ったとしても平面充填図形にはならない.正二十面体は正三角形でできているが,辺に沿って切ったものは平面充填図形になるものがある.
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【2】二面体の場合
任意の多面体に対する結果については,
Jin AKIYAMA: Tile-makers and semi-tile-makers, Amer. Math. Mon. 114(7), 602-609
を参照していただきたいのであるが,この論文には二面体の場合も取り上げられている.
[4]以下に掲げる3種類の三角二面体と1種類の四角二面体は好き勝手に切っても,辺に沿って切っても平面充填図形になる.
ここで,三角形P(黒塗り)とそれを裏返した三角形Q(白塗り)の2つを交互に並べて,平面全体をタイル張りすることを考えよう.たいていの場合は途中でタイル同士が重なってしまうが,うまくいくと市松模様のタイル張りができあがる.
(問)Pがどのような形のとき,このようなタイル張り(平面の市松模様三角形タイル張り)が可能であろうか?
(答)これが可能なためには,1つの頂点で偶数個の3角形が交わらなければならないので,これを2aとおく.また,その頂点の角度をαとおくと,頂点を一回りしたので,2aα=2π.ゆえに,
α=π/a ただし,aは2以上の自然数.
まったく,同様に残り2つの内角に対しても
β=π/b,γ=π/c
また,α+β+γ=πより
1/a+1/b+1/c=1
この等式を満たす(a,b,c)の組は非常に少ない.便宜上,a≧b≧cとすると
(3,3,3) → 正三角形
(4,4,2) → 直角二等辺三角形
(6,3,2) → 30°,60°,90°の三角形
の3種類が得られる.これらは好き勝手に切っても,辺に沿って切っても平面充填図形になるというわけである.
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第4の三角二面体はないのだろうか?
(問)1つの3角形を辺に関して次々折り返していって,3角形が互いに重なることなく,平面を埋めつくすことができるか?
(答)この問題も平面を鏡映三角形で埋めるというものであるが,市松模様という条件がなくなっているので,1つの頂点に会する三角形は偶数に限る必要はない.
α=2π/p ただし,pは3以上の自然数.
まったく,同様に残り2つの内角に対しても
β=2π/q,γ=2π/r
また,α+β+γ=πより
1/p+1/q+1/r=1/2
が成り立つ.
ここで,3≦p≦q≦rと仮定すると
1/2=1/p+1/q+1/r≦3/p
より,3≦p≦6
さらに,pが奇数のとき,頂点Aからでる2辺の長さは等しくならなければならない.そうしないと,折り返しでうまく重ならないからである.したがって,
(i)p=3のとき,q=rなので,
q(q−12)=0
これより,(p,q,r)=(3,12,12)
(ii)p=4のとき,(q−4)(r−4)=16
これより,(p,q,r)=(4,5,20),(4,6,12),(4,8,8)ですが,(p,q,r)=(4,5,20)は必要条件を満たすものの,十分条件を満たさない,すなわち,1点のまわりだけは完全に埋められても平面のタイル張りにならない.凸な多角形では七角以上になるとどんな型のものも平面充填はうまくいかないのである.
(iii)p=5のとき,q=rより,
q(3q−20)=0
これを満たす3以上の整数はない.
(iv)p=6のとき,(q−3)(r−3)=9
これより,(p,q,r)=(6,6,6)
結局,求めるタイル張りは
(6,6,6) → 正三角形
(4,8,8) → 直角二等辺三角形
(4,6,12) → 30°,60°,90°の三角形
(3,12,12)→ 30°,30°,120°の三角形
の4通りあることになり,実際に十分条件を満たす.
30°,30°,120°の角をもつ三角形は,正三角形格子(3,6)の各面を3個の合同な三角形に分解することによってできるモザイク模様−−−「麻の葉」文様と呼ばれるくり返し文様なのであるが,日本では古くから装飾工芸品や寄木細工のデザインなどとして用いられているので,ご存じの方も多いと思う.
30°,60°,90°のモザイクは,30°,30°,120°の三角形からなるモザイクをさらに2個の直角三角形に分解してできる模様,直角二等辺三角形モザイクは正方格子(4,4)を4分割したもの,正三角形は正三角形格子(3,6)そのものである.
秋山のタイル定理にある3種類の三角二面体は,1つの頂点に会する三角形は偶数に限る必要があるため,第4の三角二面体は存在しない.同様に,六角二面体のタイルもないのである.
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