■学会見聞録(形の科学会)

 6/25〜27に行われた形の科学会(東京学芸大学,武蔵小金井)に参加.がん学会の場合非会員は参加できないし,抄録に名前すら入れてもらえない.私は(がん学会の会員ではあっても)「形の科学会」の会員ではないのであるが,非会員であっても発表させてもらえるというこの学会の「門戸開放」は他ではありえないものであろう.その懐の広さをありがたく思う.

 6/29のOne day seminar on Math and Art(東海大学代々木校舎)の設営をしながらの参加だったので半分位しか講演を拝聴できなかったが,限られた範囲で印象に残ったことを記してみたい.

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 一番印象に残った講演は「ネクタイ」に関するものである.毎回同じようにネクタイを結んでいるつもりであっても,太い部分と細い部分のバランスがうまく折り合わず,結局何度も結び直す羽目になったという経験は誰しもお持ちのはず.その原因は何か,あるいは,ネクタイの最適な形とはどのようなものかなど,日常のありふれた問題を大人たちが小さな教室に会して真剣に討論するのであるから,この学会の象徴的なシーンといってよいであろう.

 数学関係の講演では,

[1]台形の面積 : S=h×(a+b)/2

   三角柱の体積: V=S×(a+b+c)/3

を(パップス・ギュルダンの定理の特別な場合と知らずに)自ら発見したというもの

[2]円周上の(6点でなく)任意の8点に対するパスカル・ブリアンションの定理の系を発見したが,うまく証明できていないもの

などがあった.

 私は会員ではないし会場には本職の数学者もおられたのでコメントは控えたが,とくに後者に対しては「パスカル・ブリアンションの定理は円錐曲線の定理と考えられているが,3次曲線を用いると簡単に証明することができる」というコメントを挟みたかった.

 展示コーナーでは,円の向きを水平に保ったまま鉛直面内で円運動させたときの軌跡(観覧車の床の運動)として現れる4次曲面を,手嶋吉法先生(産総研)が3次元プリンタで製作した模型の断面に2本の線分が見てとれた.4次曲線には直線は一本も載らないはずであるが,線分であれば載るのであろう.

 サイクライド曲面で知られる竹内伸子先生(学芸大)もその模型を熱心に見入っておられた.彼女が大声で感嘆しているので可笑しかったが,数学者は何でもおもしろがる人種なのだ.かくいう私もこの技術が放散虫や有孔虫の骨格模型のみならず,視覚障害者のための椎骨模型作製などに利用されていることを知りうれしくなった.また,実際にそれを活用している寺口さやかさん(広島の盲学校)の発表には頭が下がる思いがした.

 形の学会で取り扱うテーマは渾然一体である.玉石混淆でもある.混沌としている点においてユニークな学会ではあるのだが,今後どのようになっていくのだろうという不安も頭の中をよぎった.しかし,現場では松浦執先生(学芸大)が実直かつ親切に実務を担当しておられる様子が随所に感じられ,素直に感謝申し上げたい.

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