19世紀末から20世紀初頭にかけて,物質の不連続性(原子),電気の不連続性(電気素量e)に引き続き,エネルギーの不連続性(hν)という自然の秘密は徐々に暴かれてきました.量子論は物質が電場や磁場の中に置かれたときの振る舞いを説明し,量子論抜きにして現代のエレクトロニクスは考えられないのです.
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【1】水素のスペクトル線のバルマー系列の公式
1885年,バルマーは最も軽い元素である水素(原子番号1)が放電管の中で発する光(赤,青緑,青,藍,紫)の波数比が(単純なそれ故美しい)整数比
27/20,189/125,8/5,81/49
になることを発見したのであるが,この不規則な数から一体どのような法則が導き出せるのであろうか?
バルマーは赤い光の波数を5R/36すなわちある数に5/36を掛けて得られる値として表現してみた(Rはリュードベリ定数).すると赤,青緑,青,藍,紫の波数はそれぞれ
5R/36
5R/36×27/20=3R/16=12R/64
5R/36×189/125=21R/100
5R/36×8/5=2R/9=32R/144
5R/36×81/49=45R/196
と計算される.
分母は平方数の積(36=9×4,64=16×4,100=25×4,144=36×4,196=46×4),分子は平方数の差(5=9−4,12=16−4,21=25−4,32=36−4,45=49−4)になることを示し,バルマーは水素が放射する光の波数を求める公式を見つけたのである.
5/36=1/4−1/9 (赤)
12/64=1/4−1/16 (青緑)
21/100=1/4−1/25 (青)
32/144=1/4−1/36 (藍)
45/196=1/4−1/49 (紫)
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【2】水素のスペクトル線のライマン・パッシェン・ブラケット系列の公式
可視光線が含まれるバルマー系列の他にも,水素原子のより高い量子状態からより低い量子状態への移行が実現される.1906年,ライマンは高エネルギーの紫外線の波数が含まれるライマン系列
1−1/2^2
1−1/3^2
1−1/4^2
1−1/5^2
1−1/6^2
1−1/7^2
それからまもなく,パッシェンとブラケットは低エネルギーの赤外線の波数が含まれるパッシェン系列,ブラケット系列を発見した.
1/3^2−1/4^2
1/3^2−1/5^2 1/4^2−1/5^2
1/3^2−1/6^2 1/4^2−1/6^2
1/3^2−1/7^2 1/4^2−1/7^2
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【3】ボーアの原子モデル
1913年,ボーアはプランクが提案した量子化の概念を原子構造に導入することによって,原子模型の難点を解決できることに気づき,画期的な論文を発表しました.
5/36=1/4−1/9 (赤)
12/64=1/4−1/16 (青緑)
21/100=1/4−1/25 (青)
32/144=1/4−1/36 (藍)
45/196=1/4−1/49 (紫)
すなわち,ボーアはバルマーやリュードベリのスペクトル系列の公式:
1/λ=R(1/m^2−1/n^2) (m,nは量子数)
の中に,原子の中には電子が輻射を行わない軌道があること,輻射は電子がある軌道から別の軌道に跳躍するときだけに生じることを見つけだし,原子自体の微細構造を明らかにしたのです.
また,リュードベリ定数Rは物理学の普遍的な定数で,電子の質量m,電子の電荷e,光速度c,プランク定数hと式
R=2π^2 me^4/ch^3
で結ばれています.しかも,eについては4乗,hについては3乗しているのですからかなり複雑な関わり方をしています.
バルマーの公式を見たとたんに,ボーアにはすべてが明らかになったのですが,リュードベリ定数Rの値を電子の質量m,電子の電荷e,光速度c,プランク定数hなどの既知の測定値に還元し得たのはボーアの偉大な業績なのです.
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