■フェルマー曲線とリーマン・フルヴィッツの公式

 フェルマーの問題『x^n+y^n=z^nでn≧3のとき,x,y,zは正の整数解をもたない』において,フェルマー曲線x^n+y^n=1は非有理曲線で,nが奇数の場合,y=−xを漸近線とする長くゆるやかに曲がった弓形曲線,nが偶数の場合,テレビのブラウン管のような押しつぶされた円形になり,nが大きくなるにつれて正方形に近づいていきます.

 フェルマーの問題を解くことは,2変数n次多項式f(x,y)=x^n+y^n−1=0に,有理数解があるかどうかを考える問題に対応します.楕円曲線はフェルマー予想の解決で注目された曲線で,楕円曲線と三点で交わる直線で,そのうちの二つの交点の座標がわかれば他の一点の座標も計算でき,二つの点の座標が有理数ならば,他の一点の座標も有理数であるなどの性質をもっています.

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【1】ジーゲルの有限性定理(1929年)

a)整数係数のax+by=cは無数の有理数解をもちます.

b)二次曲線ax^2+by^2=cのグラフは円錐曲線ですが,この方程式が有理数解を1つもてば,実は無数のもつことを示すことができます.たとえば,方程式x^2+y^2=1には,無限に多くの有理数解,(3/5,4/5),(5/13,5/12),(12/37,35/37)など・・・が存在します.ところが,半径が√3の円,x^2+y^2=3になると有理点は全くなってしまいます.2次曲線は有理点を無限のもつか,1つももたないかのどちらかです.

c)「三次曲線ax^3+by^3=cや楕円曲線y^2=ax^3+bx^2+cx+dなど,3次以上の不定方程式には一般に整数解が有限個しかない.」

 これを証明したのはジーゲルで,その定理はジーゲルの有限性定理(1929年)と呼ばれています.この定理により,すべての2変数多項式の可解性が決定したわけではありませんが,少なくとも2変数2次多項式の可解性条件はわかったことになります.

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【2】モーデル・ファルティングスの定理

 モーデル・ファルティングスの定理(1983)とは,「種数が2以上の代数曲線は有理点を有限個しかもたない.」というものです.2次曲線のように有理点全体を1つの変数でパラメータ表示できる曲線を種数が0の曲線と呼んでいます.一方,種数が1である曲線に楕円曲線があります.したがって,有理点が無数にあるような曲線は種数が0か1ということになり,直線(種数0)か,円錐曲線(種数0)か,楕円曲線(種数1)に限られてきます.

 円錐曲線の有理点は無限ですが,楕円曲線の有理点は有限です.実際問題として,有限とはいってもものすごい大きさこともあるわけですが,無限よりは範囲が狭められたことは確かです.すなわち,フェルマーの方程式に解があるとすればそれぞれのnに対して解は高々有限です.モーデル・ファルティングスの定理によって有限個しか解がないことはわかりましが,1つもないかどうかはわかりません.フェルマーの予想が証明されたというのではありませんが,それでも大変な前進であることは明らかです.

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【3】リーマン・フルヴィッツの公式

 フェルマー曲線の分岐点はx^n=1を満たすn個のxにより[x,0,1]と表される点であり,分岐指数はすべてnであるから,リーマン・フルヴィッツの公式より

  χ(Σ)=2n−n(n−1)=3n−n^2

また,種数についてはχ(Σ)=2−2gを使えば

  g=(n−1)(n−2)/2

となる.

 すなわち,フェルマー曲線は種数が(n−1)(n−2)/2で,これはn=3のとき1ですが,n≧4のときは2以上となりますから,そこでフェルマーの予想を征するために必要となるのが楕円曲線であったというわけです.

[補]楕円曲線

  F(x,y,z)=y^2z−−4x^3+g2xz^2+g3z^3

が重婚をもつときの分岐指数を調べると

  g2=0の場合,χ(Σ)=2・3−(2+2+2)=0

  g2≠0の場合,χ(Σ)=2・3−(2+1+1+1+1)=0

こうして,Σはトーラスとなる.

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【4】多項式に関するフェルマー・ワイルズの定理の類似物

 フェルマー・ワイルズの定理『x^n+y^n=z^nでn≧3のとき,x,y,zは正の整数解をもたない』をご存じの方は多いだろう.ところで,多項式に対するフェルマー・ワイルズの定理の類似

『方程式x(t)^n+y(t)^n=z(t)^nでn≧3のとき,定数でない互いに素なx(t),y(t),z(t)は存在しない』も成り立つ.しかもそれは19世紀には知られていたようである.

 代数幾何学を使って証明されたのであるが,メーソン・ストーサーズの定理を使えばすごく簡単に証明できるという.コラム「フェルマー・ワイルズの定理の類似物からabc予想へ」を参照されたい.

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