コンピュータ計算による網羅的な探求の例としては,以下の2つの有名な極値問題が解決されたことがあげられる.
(1)1988年,ヘールズはケプラーの球の詰め込み問題(1611年)が正しいことを示した.
(2)1976年,ハーケンとアッペルは4色問題(1852年)が正しいことを示した.
[Q]JZ多面体92種(+正多面体+準正多面体)のうち,何種類かを用いて空間充填できるものをすべて決定したい・・・もコンピュータによる解析なしに解決し得ない問題であるが,静岡県立大学の武藤伸明先生が協力して下さることになった.
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【1】途中経過
[1]平面充填の必要条件は一つの頂点の回りの内角の和が360°であるのに対し,空間充填では一辺の回りの二面角の和が360°となることである.多面体に出現する二面角は重複が多いので,アルキメデス角柱とアルキメデス反角柱を除いて109個,組み合わせて360°となるものは意外に少なく,547通りであった.→組み合わせに含まれる二面角は97個で,JZ充填の可能性がある立体は98,空間充填できない立体は12あることがわかった.
[2]隣接する面の形状が異なる場合の二面角を違うものと考えると,二面角の個数は149個,組み合わせて360°となるものは13102通りであった.→組み合わせに含まれる二面角は95個,含まれない二面角は54個で,JZ充填の可能性がある立体は85,空間充填できない立体は37あることがわかった.
[3]空間充填可能立体のp角面を考えると,p個の二面角がそれぞれ和が360°になる二面閣の系列に属していることになる.隣接する二面角が異なるものを別のものとして数えると281個,隣接可能な面の対は2303組あった.→隣接可能な相手が存在する面は191個,存在しない面は90個で,このことから空間充填の可能性のある多面体は62,可能性のない多面体は65あることがわかった.
[4]とくにJ68以降では,J91充填(正12面体+立方体+J91の3種類の多面体からなる充填構造)のみが空間充填可能であり,その意味でも奇跡的な発見だったといえる.
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【2】雑感
コンピュータを使ってある程度絞り込まれたとはいえ,組み合わせの数が多いので,人手で試すにはまだまだ大変であろう.
3次元空間の周期的敷き詰めでは2重,3重,4重,6重の対称性しか許されないから,空間充填図形の平面への投影を考えると,以下のような構成的な探索手順,すなわち,
(1)多面体の4回対称軸(正方形面,正八角形面あるいは等軸な次数4の頂点を軸方向に配置(x軸[100],y軸[010],z軸[001])
(2)3回対称軸(正三角形面,正六角形面あるいは等軸な次数3の頂点を対角線方向に配置([111],[−111],[1−11],[11−1])
(3)2回対称軸を軸方向に配置([100],[010],[001])
(4)5回対称軸はこれら以外の方向に配置
することによって,[Q]に対する非常に単純だが深淵な数学的発見が可能になるのではないかと期待する次第である.
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