菱形十二面体の各面の対角線の長さの比は白銀比であり,菱形三十面体の各面の対角線の長さの比は黄金比であることをケプラーは考察した.そこで,金原博昭さんは菱形十二面体の白銀菱形を黄金菱形で,菱形三十面体の黄金菱形を白銀菱形で置き換える変形を「対角線を折り曲げて」施した.
→「菱形十二面体の黄金化と菱形三十面体の白銀化」
引き続き
→「菱形二十面体と菱形十二面体(第2種)」の白銀化
→「凧型24面体の黄金化と凧型60面体の白銀化」
→「菱形90面体の黄金比・白銀比変換」
と進んできたが,
→「菱形二十面体と菱形十二面体(第2種)」の白銀化
→「菱形90面体の黄金比・白銀比変換」
は,本質的に連立2次方程式に帰着される問題であった.
「菱形多面体(その11)」では白銀菱形を長軸で折る場合を取り上げて,本質的には3元連立2次方程式を解く問題に帰着されたが,白銀菱形を短軸で折る場合は5元連立2次方程式になったうえ,さらに工夫を加えない限り解くことができない問題となってしまった.
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【1】黄金菱形を長軸で,白銀菱形を短軸で折る場合
連立2次方程式
(x−1)^2+(xtanπ/5)^2+z^2=1+h^2
(ξ−1)^2+ζ^2=(1+h^2)/3
(x−2ξ+1)^2+(xtanπ/5)^2+(z−2ζ)^2=1+h^2
以外の2次方程式を
z−ζ=τ(x−ξ)
−x+1+hz=(τ^2−1)(1+h^2)/(1+τ^2)
まで還元することにより,やっと解を得ることができた(τ:黄金比).
解は1通りに限られ
[1]x=2.08595,z=−.320408,h=1.60586,ξ=1.92909,ζ=−.57421のとき
黄金菱形−黄金菱形間二面角は127.191°
黄金菱形内二面角は72.456°
黄金菱形−白銀菱形間二面角は150.839°
白銀菱形内二面角は157.725°
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【2】黄金菱形を短軸で,白銀菱形を短軸で折る場合
h=±1/2として,連立2次方程式
(x−1)^2+(xtanπ/5)^2+z^2=1+h^2
(ξ−1)^2+ζ^2=(1+h^2)/3
(x−2ξ+1)^2+(xtanπ/5)^2+(z−2ζ)^2=1+h^2
z−ζ=τ(x−ξ)
に帰着された.実数解は求められたものの実行可能解ではなく,不可能物体であることがわかった.
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【3】まとめ
菱形90面体の黄金比と白銀比においては
[1]黄金菱形を長軸で,白銀菱形を長軸で折る場合→OK(2通り)
[2]黄金菱形を短軸で,白銀菱形を長軸で折る場合→OK(2通り)
[3]黄金菱形を長軸で,白銀菱形を短軸で折る場合→OK(1通り)
[4]黄金菱形を短軸で,白銀菱形を短軸で折る場合→NG(0通り)
であった.
実際の計算は阪本ひろむ氏+Mathematicaにお願いした.すぐ解が得られるとたかをくくっていたのであるが,思いの外,難渋してしまった.その原因や対策について,阪本氏のコメントを掲げる.
「これまでの非線形連立方程式の場合,まず厳密解をもとめ,その数値解をもとめるという手順で,特に失敗なく答えが求められた.今回の場合,
厳密解がメモリー不足で求まらない
制約が多すぎて答えがない
制約が少なすぎて,一部の変数が消去でいない
などの現象が多発した.
メモリー不足は,仮想メモリーを増加させるだけでは対応できなくなった.いま私が使っているのは,WindowsXP 32ビット版,Mathematicaも32ビット版であるが,64ビット版で果たして答えを返してくれるかどうかはわからない.
最後には数値解だけを求めることで,何とかゴールにたどり着けた.今回の場合,方程式そのものが複雑すぎたということだろう.」
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