■n次元の立方体と直角三角錐(その12)

 ペンタドロンは立方体の基本単体をその最長辺の垂直2等分面で切断した立体である.ペンタドロンをうまく組み合わせると,立方体・菱形十二面体・切頂八面体などの空間充填形(平行多面体)ができるが,平行多面体がこのような1種類の素材だけで組み立てることができるのは驚きである.

 その高次元版のひとつが(その2)〜(その4),(その6)〜(その8)で求めた立方体系(permutahedron)の元素である.4次元(一般に偶数次元)のときには,この超平面はn/2次元の胞の中心を通り,一種の退化を生じるのであった.

 ところで,準正多面体による4次元空間充填には

(1)3次元の六角柱とケルビン立体を組み合わせたケルビン立体の4次元版である正5胞体系(1111)

(2)3次元の立方体とケルビン立体を組み合わせた正16胞体・8胞体系(1110)

がある.

 前者(正単体系)は単独空間充填図形となる原始的平行多面体である.一方,後者(立方体系:permutahedron)は単独では空間充填できず,n次元立方体と組み合わせると空間充填可能となる.もちろん両者は異なる多胞体であるが,3次元の場合のみ同じ切頂八面体を回転させた形状になる.すなわち,両者は3次元の場合は一致するが,4次元以上の場合は一致しない.今回のコラムでは前者(正単体系)=原始的平行多面体の元素を求めてみることにしたい.

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【1】n次元正単体の二面角

 線分,三角形,四面体(三角錐)はそれぞれ最も簡単な1次元図形,2次元図形,3次元図形であるが,次元数nより1つ多い数の頂点によって作られる高次元図形を単体(シンプレックス)と呼ぶ.線分は一次元単体,三角形は二次元単体,三角錐は三次元単体とも呼ばれる所以である.

 n次元正単体の頂点の座標を

  V1(1,0,・・・,0)

  V2(0,1,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・・

  Vn(0,0,・・・,1)

としよう.これらの頂点間距離は√2である.

 これらの座標が与えられたとき,残りの1点の座標は

  Vn+1(x,x,・・・,x)

とすることができる.他の頂点との距離は√2であるから,

  (x−1)^2+(n−1)x^2=2

すなわち,

  nx^2−2x−1=0

を満たさなければならないことより,

  x={1−√(1+n)}/n

が得られる.

 n+1個の頂点:

  V1(1,0,・・・,0)

  V2(0,1,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・・

  Vn(0,0,・・・,1)

  Vn+1(x,x,・・・,x)

の中心座標(体心)は

  P((x+1)/(n+1),・・・,(x+1)/(n+1))

 重心から各頂点までの距離は一定だから

  |PV1|=|PV2|=・・・=|PVn+1|

  PV1=(1−(x+1)/(n+1),−(x+1)/(n+1),・・・,−(x+1)/(n+1))

  PVn+1=(x−(x+1)/(n+1),x−(x+1)/(n+1),・・・,x−(x+1)/(n+1),x−(x+1)/(n+1))

  |PVn+1|=|PV1|=|PV2|=(n/(n+1))^1/2

としても同じである.二面角は

  cosθ=(PV1,PV2)/|PVn+1|^2=−1/n

と計算される.

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【2】正単体の体積と基本単体

 三角形の面積は底辺かける高さ割る2であるが,三角錐になると底面積かける高さ割る3,四次元の三角錐なら底体積かける高さ割る4,五次元なら底四次元面積かける高さ割る5・・・.

 正単体の体積を求めるにあたって問題となるのは,その高さである.高さを求めるために,n次元正単体の頂点の座標が与えられたとき,底面

  (1,0,・・・,0)

  (0,1,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・・

  (0,0,・・・,1)

の重心は

  (1/n,1/n,・・・,1/n)

であるから,頂点

  (x,x,・・・,x)

との距離(高さ)Hnは,

  Hn=√(1+1/n)

で与えられることになる.

 したがって,漸化式

  Vn=Vn-1×Hn/n

より,

  Vn=√(1+n)/n!

を得ることができる.

 V2=√3/2,V3=1/3,・・・

となるが,V2,V3はピタゴラスの定理を使えば中高生でも簡単に確かめることができるであろう.

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 また,

  Hn=√((n+1)/n)

  H2=√(3/2),H3=√(4/3),・・・,

より,基本単体の座標は

  Hn/(n+1)=√((n+1)/n)/(n+1)=√(1/n(n+1))

で与えられるから

  p0(0,0,・・・,0)

  p1(√(1/2),0,0,・・・,0)=(a1,0,0,・・・,0)

  p2(√(1/2),√(1/6),0,・・・,0)=(a1,a2,0,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・・・・・・・

  pn-1(√(1/2),√(1/6),√(1/12),・・・,√(1/n(n−1)),0)=(a1,a2,a3,・・・,0)

  pn(√(1/2),√(1/6),√(1/12),・・・,√((1/n(n+1))=(a1,a2,a3,・・・,an)

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【3】超平面での切断

 まず,aを行ベクトル,xを列ベクトルとして

  a=(a1,・・・,an)

  x’=(x1,・・・,xn)

また,実数をcとおくと,n次元ユークリッド空間の超平面は,

  ax’=c

で表すことができます.原点を通るときc=0です.

 ベクトルaを超平面の法線ベクトルと呼びます.法線ベクトルはスカラー倍を除いて一意に定まります.aをその長さ‖a‖で割ったベクトルa/‖a‖を考えると,これは長さ1の単位法線ベクトルとなります.

 また,aが単位法線ベクトル,すなわち,

  a1^2+a2^2+・・・+an^2=1

が成り立つとき,cは原点から超平面へ引いた垂線の(符号のついた)長さとなります.

 n=1なら方程式はax=bですから,超平面は点にほかなりません.n=2ならax+by=cとなり,超平面は直線,n=3ならax+by+cz=dですから,超平面は平面を表します.3次元空間内の超平面が普通の平面だし,2次元空間内の超平面は直線ですから,n次元空間の場合,n−1次元の線形多様体を超平面というのです.

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【4】正単体系の基本単体の切断

 コラム「切頂・切稜型多面体の計量(その2)」において,切頂優位型(s=1/6,t=3s)として,正四面体の頂点と稜線の両方をトランケートして,辺の長さが等しくなるように調整すると,正四面体→切頂八面体となることを述べた.

[補]正八面体→大菱形立方八面体,正二十面体→大菱形12・20面体

 それでは,正n+1胞体に対してどのような調整を施せば,平行多胞体である2(2^n−1)胞体が得られるのであろうか?

  (a1,a2,a3,・・・,an)=(√(1/2),√(1/6),√(1/12),・・・,√(1/n(n+1)))

とおくと,基本単体を切断する平面は

(1)頂点ベクトルp0pnに垂直で,p1(t=3s)を通るn次元超平面:

  a1x1+a2x2+・・・+anxn=1/2

(2)辺心ベクトルp1pnに垂直でt=1/6=(1/√2,√6/12,0,・・・,0)を通るn次元超平面:

  a2x2+・・・+anxn=1/12

で表される.

 この切断によって得られる領域はc-squadronのn次元版であり,それをp1pnを通る超平面で2等分して得られる領域はペンタドロンのn次元版となる(はずである).ここでは切断(1)だけを考えるが,p0pnと(1)との交点を

  q(a1k,a2k,a3k,・・・,ank)

とすると,p1を通ることより

  k=(n+1)/2n

 このとき,

  (p2pn)^2=(n−2)/3(n+1)

  (qpn)^2=(n−1)^2/4n(n+1)

であるから,p2pn=qpnとなるのはn=3のときだけで,一般に対称図形にならないことがわかる.また,p2q⊥p1pnとなるのもn=3のときだけに限られる.

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【5】まとめ

 超立方体の基本単体は扱いやすい対象であった.それに対して正単体はかなり異質である(3次元のときは例外).それだけに3次元の場合のアナロジーで高次元図形をうまく二等分(ないし有限個等分)使用とするのに無理があるのかもしれない.

 原始的平行多面体の元素問題に対しては目下の所「五里霧中」であり,3次元の場合のアナロジーで考えるのは無理ではないかといった消極的な印象を拭えないし,危険な気さえする.一般のn次元にせず,まずn=4とかn=5の場合を具体的に入念に調べてみるのが第一歩なのではないかと感じる次第である.

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