■4次元正多胞体の元素定理

 4次元正多胞体の元素数は4であると予想されるが,まずは「下からの評価」から始めたい.

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【1】4次元正多胞体と(拡張)デーン不変量

      境界多面体 境界面p 頂点に集まる面q 辺に集まる胞r

5胞体   正4面体    3        3       3

8胞体   立方体     4        3       3

16胞体  正4面体    3        3       4

24胞体  正8面体    3        4       3

120胞体 正12面体   5        3       3

600胞体 正4面体    3        3       5

 ここで,超立方体と分解合同であるかどうかを示す不変量を

  n次元デーン不変量=f(n−1次元デーン不変量,n−2次元デーン不変量,・・・,2次元デーン不変量)

と定義して,二胞角の有理数係数についての独立性に加えて,境界多面体の二面角の独立性を調べてみると,

      二胞角   二面角

5胞体    A     C

8胞体    B     D

16胞体   B     C

24胞体   B     C

120胞体  B     E

600胞体  A     C

となって4種類の組み合わせ(AC,BD,BC,BE)ができる.このことから,4次元正多胞体の元素数は≧4であると評価される.

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【2】4次元正多胞体の巡礼(包含関係)

 「上からの評価」に移ろう.頂点の関係から,6種類の4次元正多胞体の包含関係(巡礼)をまとめると,

  正16胞体≦正8胞体≦正24胞体≦正600胞体≦正120胞体

  正5胞体≦正120胞体

となる.すなわち,正120胞体の頂点をうまくとると,他の正5,8,16,24,600胞体をすべて作ることができる.その意味で,正120胞体は4次元の「万有正多面体」である.

 なお,120÷5=24なので,一見正600胞体の120個の頂点からうまく選べば正5胞体が24個含まれても良いように見えるが,正600胞体の頂点を結んでも同じ中心をもつ正5胞体は作れない.4次元正多胞体の中で正5胞体は何か異端児である.ともあれ,頂点による包含関係が確定したところで,4次元正多胞体の元素を構成することにしたい.

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【3】直角5胞体(right penta)

 4次元直角5胞体の各頂点の座標を

  (0,0,0,0)

  (1,0,0,0)

  (0,1,0,0)

  (0,0,1,0)

  (0,0,0,1)

とおき,RP(right penta)と呼ぶことにする.また,互いに直角に交わる頂点からの辺の長さ(この場合は1)をRPの辺の長さと呼ぶことにする.

 このRP4!=24個の体積は1辺の長さ1の正8胞体と等しくなるから,RPの体積は1/24である.辺の長さを1としたRP2^4=16個で1辺の長さ√2の正16胞体(体積16/24=2/3)ができる.正8胞体の辺の長さを1として,ひとつおきの頂点を結べば1辺の長さ√2の正16胞体ができる(後述)ので,これを16個のRPで組立て,その外側に(ひとつおきに)計8個のRPを埋めて,合計24個のRPで正8胞体を合成できる(体積は1).

 [4][5]では,正8,16,24細胞体をRPの「大きさを問わず」,ともかく相似な素材RPに分割することを試みる.

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【4】正8胞体と正16胞体

 正8胞体は16頂点(±1,±1,±1,±1)を結んでできる.正16胞体を構成するひとつの方法として,正8胞体の中心からひとつおきの頂点を結んだベクトルをとると,4本のベクトル(1,1,1,1),(1,1,−1,−1),(1,−1,1−,1),(1,−1,−1,1)は互いに直交し,長さは2すなわちもとの正8胞体の1辺の長さに等しい.この4頂点と中心に対する4頂点の合計8頂点±(1,1,1,1),±(1,1,−1,−1),±(1,−1,1,−1),±(1,−1,−1,1)は互いに直交する4本の軸上にあるから,正16胞体をなすことになる.この正16胞体の1辺の長さは2√2であるから,16個のRPよりなり,体積は32/3であることがわかる.

 正8胞体の残りの8頂点は±(−1,1,1,1),±(−1,1,−1,−1),±(−1,−1,1,−1),±(−1,−1,−1,1)であるが,たとえば,ベクトルの始点を(−1,1,1,1),終点を±(1,1,1,1),±(1,1,−1,−1),±(1,−1,1,−1),±(1,−1,−1,1)にとると,正8胞体から正16胞体を取り除いた部分にRP(−2,0,0,0),(0,−2,0,0),(0,0,−2,0),(0,0,0,−2)を構成することができる.このとき,8個のRPが構成できることは,

  (16−32/3)/(2/3)=8

からも確かめることができる.

 すなわち,3次元の立方体では8個の頂点をひとつおきに4個のright tetraをとると正四面体ができるが,4次元の特殊性として正8胞体では8個のright pentaをとると正16胞体ができ,正8胞体は24個のRPから構成されるというわけである.なお,この操作によって3次元では正四面体,4次元では正16胞体になったが,5次元以上の空間では正多面体にならず,1種の準正多面体になる.

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【5】正24胞体

 正24胞体の頂点の座標は

  (±1,±1,±1,±1)・・・正8胞体の頂点

  (±2,0,0,0),(0,±2,0,0),(0,0,±2,0),(0,0,0,±2)・・・正16胞体の頂点

の24点である.3次元空間で立方体の8頂点(±1,±1,±1)と正八面体の6頂点(±2,0,0),(0,±2,0),(0,0,±2)を結ぶと菱形12面体ができるから,正24胞体は3次元の菱形12面体の4次元版と見ることができる.4次元ではその特殊性から本当に正多面体になるわけである.

 正24胞体の胞をなす3次元の正八面体,たとえば,その6頂点を(2,0,0,0),(1,1,±1,±1),(0,2,0,0)とする.この正八面体を3次元空間で辺の長さ√2のRT(right tetra:3次元のRP)8個に分解し,それを中心(0,0,0,0)から射影すれば,4次元の中心から3次元胞の中心(1,1,0,0)までの距離が√2で,ちょうど辺の長さ√2の4次元のRPができるので,全体で8×24=192個のRPで埋め尽くせることになる.

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【6】正600胞体

 正600胞体の頂点の座標は,正24胞体の頂点(±1,±1,±1,±1),(±2,0,0,0),(0,±2,0,0),(0,0,±2,0),(0,0,0,±2)の置換24点とねじれ24胞体の頂点(±τ,±1,±1/τ,0)の偶置換96点で与えられる.

 (±τ,±1,±1/τ,0)は正8胞体の面の中心またはその双対として正16胞体の辺の中点(±1,±1,0,0)をτ倍した(±τ,±τ,0,0)を1:τに黄金分割したものである.3次元の正八面体の各辺を黄金分割した12点をとると,正20面体の頂点になるが,この操作を正24胞体の各胞(正八面体)に施すと120個の正四面体に囲まれた準正多面体ができ,正600胞体はこの図形から作ることができるというわけである.

 この操作は3次元の場合でいえばright tetraをβとγに分割する操作に相当する.したがって,正600胞体単独でひとつの元素とみなしても同じことである.

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【7】正5胞体と正120胞体

 正600胞体は正24胞体のroofをなすが,正120胞体は正600胞体のroofをなすと同時に,正5胞体のroofもなす.3次元の場合でいえばδが2個あるようなもので,正5胞体と正120胞体をそれぞれ単独でひとつの元素とみなしても同じことである.

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【8】まとめ

  RP16個 → 正16胞体

  RP24個 → 正8胞体

  RP192個→ 正24胞体

となり,4種類の元素(RP,正5胞体,正600胞体,正120胞体)があればすべての4次元正多胞体を構成できることが示された.

 上からの評価「4次元正多胞体の元素数は≦4である」ことが証明されたことになるが,ここで行った構成法はbest possibleと考えられ,4次元正多胞体をどのように分割し,接合しても元素数は4より減らせそうにないことから「4次元正多胞体の元素数は4である」と予想される.

 これに下からの評価「4次元正多胞体の元素数は≧4である」が加味されて,4次元4次元正多胞体の元素数は4であることが確定する.これで,4次元正多胞体すべてを少数の「素子」で合成しようという,秋山仁先生が数学セミナーの「エレガントな解答をもとむ」に出題された3次元正多面体の問題の4次元版は解決である.

 最後に,このmagic and mysteryを種明かししよう.RPは素材としては大変有用であったが,3次元正多面体の元素定理でカギを握っているのが直角三角錐(RT:right tetra)であることに気づけば,任意のn次元でも直角三角錐が有用になると考えるのは自然な発想,自然な成り行きである.

 n次元の直角三角錐2^n個で正2^n胞体ができる.また,この図形n!個の体積は1辺の長さ2の正2n胞体(体積:2^n)と等しくなる.正2n胞体からはこの図形を2^n-1個を取り除いくことができる.

 3次元では立方体から直角三角錐を4個取り除くと正四面体,4次元では正8胞体からRPを8個取り除くと16胞体になるが,5次元以上の空間では5次元以上の空間では正多面体にならず,1種の準正多面体になる.これが各次元における元素定理の正体なのである.

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