■n次元の立方体と直角三角錐(その11)

 この3月20日,正多面体と平行多面体の元素定理に関するセミナーが開催された.とはいっても参加者は秋山仁先生とドルビリン先生(ステクロフ研究所)と小生の3人だけであるが,あまり上手とはいえない英語での議論なのでたいそうな時間がかかってしまった.今回のコラムでは,セミナーでの質問に回答を与えたいと思う.

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【1】3次元では立方体から直角三角錐RTを4個取り除くと正四面体,4次元では正8胞体からRPを8個取り除くと16胞体になるが,5次元以上の空間では5次元以上の空間では正多面体にはならない.それでは芯の形はどのようになるのだろうか?

[A]立方体は8頂点(±1,±1,±1)を結んでできる.3次元の立方体では8個の頂点をひとつおきにとると正四面体ができる.たとえば,その頂点は(1,1,1),(1,−1,−1),(−1,1,−1),(−1,−1,1)の合計4頂点である.格子点(x,y,z)において,x+y+zが奇数,偶数の頂点を奇頂点,偶頂点と呼ぶことにする.偶頂点を中心として奇頂点のみをとって結んだ直角三角錐がRTである.3次元では立方体から直角三角錐RTを4個取り除くことができる.

 ひとつの頂点からは(3,2)=3本のベクトルがでるが,奇頂点(1,1,1)を中心として切断面にある他の3頂点と結んだベクトルは(0,−2,−2),(−2,0,−2),(−2,−2,0)であり,互いに60°で交わる長さ2√2のベクトルとなる.頂点数4,面数4であり,芯に正四面体が残ることになる.

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 正8胞体(4次元超立方体)は16頂点(±1,±1,±1,±1)を結んでできる.正8胞体の中心からひとつおきの頂点を結んだベクトルをとると,(1,1,1,1),(1,1,−1,−1),(1,−1,1,−1),(1,−1,−1,1),(−1,1,1,−1),(−1,1,−1,1),(−1,−1,1,1),(−1,−1,−1,−1)の合計8頂点が得られる.

 これらは4頂点(1,1,1,1),(1,1,−1,−1),(1,−1,1−,1),(1,−1,−1,1)と中心に対する対称な4頂点の合計8頂点であって,互いに直交する4本の軸上にあるから,正16胞体をなすことがわかる(4次元空間の特殊性).すなわち,3次元の立方体では8個の頂点をひとつおきにとると正四面体ができるが,4次元立方体では正16胞体(4次元の正八面体)ができることになる.

 ひとつの頂点からは(4,2)=6本のベクトルがでるが,互いに60°で交わる長さ2√2のベクトルとなる(正四面体).頂点数は8,胞は正四面体であり,芯に正16胞体が残ることがおわかりいただけるであろう.

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 3次元では正四面体,4次元では正16胞体になったが,5次元以上の空間では何になるのだろうか?

 5次元正16房体は32頂点(±1,±1,±1,±1,±1)を結んでできる.5次元正16房体の中心からひとつおきの頂点を結んだベクトルをとると,(1,1,1,1,1),(1,1,1,−1,−1),(1,1,−1,1,−1),(1,1,−1,−1,1),(1,−1,1,1,−1),(1,−1,1,−1,1),(1,−1,−1,1,1),(−1,1,1,1,−1)(−1,1,1,−1,1)(−1,1,−1,1,1)(−1,−1,1,1,1),(1,−1,−1,−1,−1)(−1,1,−1,−1,−1),(−1,−1,1,−1,−1)(−1,−1,−1,1,−1),(−1,−1,−1,−1,1)の合計16頂点が得られる.

 すでにお気づきであろうが,

  (n,0)+(n,2)+(n,4)+・・・

すなわち,nが奇数の場合は

  (n,0)+(n,2)+(n,4)+・・・+(n,n−1)

nが偶数の場合は

  (n,0)+(n,2)+(n,4)+・・・+(n,n)

で,いずれの場合も合計2^(n-1)頂点が得られることもおわかりいただけたであろう.

 (1,1,1,1,1)を中心として,他の頂点と結んだベクトルは(0,0,0,−2,−2),(0,0,−2,0,−2)などとなる.ひとつの頂点からは(5,2)=10本のベクトルがでるが,互いに60°で交わる長さ2√2のベクトルとなる(正5胞体).頂点数は16,4次元面の形は正5胞体となる.

 n次元空間の正多胞体(n≧5)は

        境界胞体    頂点   双対性  対応

(n+1)胞  n胞体     n+1  自己双対 正4面体・5胞体

2n胞体  (2n−2)胞体  2^n   2^n胞体 立方体・8胞体

2^n胞体    n胞体     2n 2n胞体 正8面体・16胞体

の3種類だけであるから,5次元以上の空間では芯(頂点数2^n-1)は正多面体にならず,1種の準正多面体になることがわかる.

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 ついでに,6次元の場合を調べてみると,6次元立方体は64頂点(±1,±1,±1,±1,±1,±1)を結んでできる.6次元立方体の中心からひとつおきの頂点を結んだベクトルをとると,±(1,1,1,1,1,1),±(1,1,1,1,−1,−1),±(1,1,1,−1,1,−1),±(1,1,1,−1,−1,1),±(1,1,−1,1,1,−1),±(1,1,−1,1,−1,1),±(1,1,−1,−1,1,1),±(1,−1,1,1,1,−1),±(1,−1,1,1,−1,1),±(1,−1,1,−1,1,1),±(1,−1,−1,1,1,1),±(1,1,−1,−1,−1,−1),±(1,−1,1,−1,−1,−1),±(1,−1,−1,1,−1,−1),±(1,−1,−1,−1,1,−1),±(1,−1,−1,−1,−1,1)の合計32頂点が得られる.これらの16本の軸は直交しないこともおわかりいただけるであろうか.

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【2】permutahedron

 (その10)で紹介した「n次元切頂八面体」は平行多面体の定義を満たしていないのであるが,その座標データが整数座標(0,±1,±2,±3,・・・,±n−1)の点の置換2^(n-1)・n!個からなるpermutahedronという族の多面体であることを教えていただいた.

 ドルビリン先生より,この多面体の凸包の体積について意見を求められたが,体積は行列式の形で求めることができて,その問題については石井源久先生がすでに求めておられるとコメントしておいた.

 整数座標で等差数列をなす場合,すなわち(a,a±d),a±2d),・・・,a±(n−1)d))の場合も同様であろう.

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