■ロスの定理(その17)

 それでは

  |α−an/bn|<1/bn^k

が無限に多くの解をもつことができるような最大の実数kはいくつになるのだろうか? kを求める問題は1種の最良近似問題である.

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【1】トゥエの定理

 リューヴィルは代数的数αの次数をn(≧2)とすると,

  |α−p/q|>1/q^n

がすべての有理数p/qに対して成り立つことを示した(リューヴィルの定理,1844年).この指数を改良するために多くの研究がなされた.

 20世紀にはいって,トゥエはリューヴィルの不等式を

  |α−p/q|<1/q^(1+n/2)

のように改良した(1908年).

 αの次数をnとすると,

  k≦n/2+1   (トゥエ,1908)

  k≦s+n/(s+1) (s=1,2,・・・,n−1)   (ジーゲル,1921)

  k≦√2n   (ダイソン,1947) (ゲルファント,1952)

などの結果が知られている.

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【2】ロスの定理

 これらの結果はすべてαの次数nに関係した結果であったが,ジーゲルは実はk≦2であろうと予想した.彼の予想が正しいとすると,ディリクレの定理からk≧2であるから,合わせるとk=2という結論を得ることができる.

 この予想は1955年,イギリスの数学者ロスによって証明された.</P>

<P ALIGN="JUSTIFY">「無理数αが無限に多くの既約分数解{an/bn}をもてば,k≦2が成立する.」

 つまり,ロスの定理は次数n≧2の代数的数αは最良無理測度2をもつというもので,ディリクレに始まった無理数を有理数で近似する問題に関する決定的な結果(k=2)であって,ディオファントス近似に対する一応の終止符が打たれたことになる.この業績によりロスにはフィールズ賞が与えられることになった(1958年)

  [参]平松豊一「初等数学アラベスク」牧野書店

によると,この証明は高度な数学理論を使わずとも可能なごく初等的なものであるそうである.いささかの感動をおぼえる話である.

 なお,リドゥやシュミットによるロスの定理の拡張もある.リドゥ(1957年)はp,qの素因子に関するある制限のもとにkの下限がより小さくできることを示した.シュミット(1971年)の拡張は部分空間定理と呼ばれるものである.

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【3】雑感

 ギリシア人は√2が有理数でないことを知って驚き,1900年,ヒルベルトは2^√2が超越数であるか否かを「数学の問題」として提示した.ロスの定理はそのひとつの著しい進展である.

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