■ロスの定理(その14)

 それでは

  |α−an/bn|<1/bn^k

が無限に多くの解をもつことができるような最大の実数kはいくつになるのだろうか? kを求める問題は1種の最良近似問題である.

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【2】ロスの定理

 2次の無理数では,ある数cが存在して

  |α−p/q|>c/q^2

がすべての有理数p/qに対して成り立つことが導かれたが,リューヴィルはこのような定理がより一般の任意の代数的無理数に対しても成立することを証明した.

 すなわち,代数的数αの次数をn(≧2)とすると,

  |α−p/q|>c/q^n

がすべての有理数p/qに対して成り立つ(リューヴィルの定理,1844年).

 それでは

  |α−p/q|>c/q^k

がすべての有理数p/qに対して成り立つkはいくつになるのだろうか? この指数kを改良するために多くの研究がなされた.「ロスの定理」は最良のものである.

  k≧n   (リューヴィル,1844)

  k>n/2+1   (トゥエ,1909)

  k>2√n   (ジーゲル,1921)

  k>√(2n)   (ダイソン,ゲルファント,1947)

  k>2   (ロス,1955)

 この予想は1955年,イギリスの数学者ロスによって証明された.

「無理数αが無限に多くの既約分数解{an/bn}をもてば,k≦2が成立する.」

 ディリクレの定理からk≧2であるから,合わせるとk=2という結論を得ることができる.つまり,ロスの定理は次数n≧2の代数的数αは最良無理測度2をもつというもので,ディリクレに始まった無理数を有理数で近似する問題に関する決定的な結果(k=2)であって,ディオファントス近似に対する一応の終止符が打たれたことになる.この業績によりロスにはフィールズ賞が与えられることになった(1958年)

 トゥエ・ジーゲル・ロスの定理はkのある値に対して,cの値が存在することを証明したが,cの値を具体的に定めることはできない.そうではあるが,特別な代数的数に対しては効果的な結果が得られている.たとえば,ベイカーは超幾何関数の性質を用いて,すべての有理数p/qに対して

  |3√2−p/q|>10^-6/q^2.955

が成り立つことを証明した(1964年).n≧3の一般の代数的無理数に対するcの値を具体的に与えられる希望が見えてきたのである.

 超越数の理論から,任意のεに対してc>0が存在して,すべての整数p,q1,・・・qnに対して

  |q1e+・・・+qne^n−p|>cq^(-n-ε)   q=max|qi|

が成り立つが,トゥエ・ジーゲル・ロスの定理を一般化したシュミット(1971年)の研究は,e,・・・,e^nを有理数上1次独立であるような代数的数θ,・・・,θ^nに置き換えても同じことが成り立つことを示している.

  |q1θ+・・・+qnθ^n−p|>cq^(-n-ε)   q=max|qi|

シュミットの拡張は部分空間定理と呼ばれるものである.

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